赤色 ページ30
『まだ終わんねぇの?』
「すみません。キリがいいところまでやりたいので」
誘ったのは俺だから黙って待っていればいいのだけど、こうして話しかけるのは俺が構ってもらいたいから。
深夜まで続く撮影にも欠伸一つせず付き合うマネ。
開いたパソコンの画面は見ているだけで頭が痛くなりそうだ。
でも一瞬見えてしまったスマホの画面はなぜか薮ちゃんとのトーク画面。俺は業務連絡しかしないからきっと薮ちゃんもそうだと思った。
次に鳴ったのは大ちゃんからの着信。
一つさ小さく溜め息をついたマネは、失礼します、と言って部屋を出ていった。
馬鹿みたいだ、と思った。なにが目的で俺はマネと大ちゃんの電話の盗み聞きなんかしているんだろう。
「…今日はごめんなさい。…うん、朝は行くよ。…おやすみなさい、大貴」
いやいやちょっと待て。いま大貴って言ったよな。大貴って大ちゃんのこと?そうだよな。なに、なんで。呼び捨て?いつの間に。嘘だ。みんなの前では有岡さん、て呼んでるぞ。
逆にリアルだ。
「…すみませんでした。今日は終わりにします。帰りますか?」
『あぁ、帰る』
なにごとも無かったかのように荷物をまとめるマネは、この一瞬で疲れたように見えなくもない。
『今日は、泊まれんの?』
「はい、大丈夫ですよ」
それは、俺が誘うと分かっていたから大ちゃんを断ったの?本当は大ちゃんと過ごす予定だったの?
『大ちゃん、は…?』
「有岡さんですか?どうしました?」
『いや、なんでも』
なにを考えてなにを言おうとしてんだ、俺は。
もしここで俺がこいつを帰したら、こいつは大ちゃんの所へ行くんだろうか。
今でなくとも、さっきの電話じゃおそらく朝は大ちゃんを起こしに行く。
なんとなくそれが、気に入らなかった。
「や、まださ…」
『ん、なに?』
「…なにか、ありました?っや、」
『なにかって、なに』
理由も分からない苛立ちは、何回マネにぶつけても晴れない。理由は分からなくても原因は間違いなくマネだから当然だけど。
しつこいほどに離さない俺をさすがに不審に思っているらしいマネは、だんだんと否定の言葉が増えてきた。
体力勝負、と言っていたけれど。
抱き潰すつもりで始めたのに、疲れて眠ってしまったのは俺の方。
綺麗さっぱり姿を消しているマネは、大ちゃんのところへ行ったんだろう。
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作者名:ney-ko | 作成日時:2018年5月29日 1時