傘とビニール袋 ページ45
何日も俺を出迎え続けてくれたビニール傘と、次に繋がる缶ビールの入ったビニール袋を持ってAちゃんの部屋の前に立つ。
いないってわかっているけど、少しだけ期待して、もう一度だけインターフォンを押してみようかと思ったけど、さすがにやめた。
ドアノブに、傘とビニール袋を引っ掛けて、一歩離れてから、その光景を振り返ると、自分でも気持ちが悪いほどにやけている事に気がつく。
「オレ……必死じゃね?マジきもっ!」
Aちゃんが帰ってきて、傘に気がついたらどんな顔するかな。
ビニール袋を覗き込んで、缶ビールが入ってたら笑うかな。
紙切れ見つけて、どう思うかな。
自分の部屋に戻る数歩の間に、グルグルと脳内で展開される予想。
一緒に……もう一度、一緒に……
無意識に、ただ、自分の思いだけで、そこまでたどり着いて、その先を閉ざす。
「…………ヤベェ。」
自分の部屋のドアノブを掴んで、漏れる声は、あの日の記憶を蘇らせた。
あの夜。
オレの部屋の前には、
傘でも、
ビニール袋でもなく、
カノジョが立っていた。
『……ごめん。あの……少し、話せない?』
紙切れに書かれた文字じゃなく、自分の言葉で、声で、オレに伝えようとしていた。
『……お願い。やっぱり、私、……高嗣のこと……』
一度、途切れた思いを、……繋げようと。
「…………っ。」
ドアノブを握る手に、力が入る。
どんな気持ちだった?
何を伝えたかったの?
たかが、ビニール傘を返すだけで、こんなに迷って、悩んだくらいだよ。
自分から離した手に、もう一度、触れようとする勇気は、きっと、並大抵の覚悟じゃ足りない。
ドアノブを引いて、大股で部屋に入ると、すぐに鍵をかけた。
オレ……あの時、なんて言った……。
『何やってんの?』
『ごめん、無理。もう、話せない。』
『もう、『高嗣』とか、呼ばないで?
もう、こんなこと、しないで?』
変えられない結末だったとしても、言葉だったら、もっと、他にもあったはずだ。
「…………ゴメン…ッ。」
もう、届くはずのないカノジョへの謝罪は、自分の胸に、深く刺さった。
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植尾あい(プロフ) - ノンさん» はじめまして。キミ声、何度も読んでもらえたなんて嬉しいです。ニカ中毒だなんて!光栄です!私の言葉、気に入ってもらえましたか?よかった!これからも、のんびりですがキミ恋もよろしくお願いします(*^^*) (2017年4月25日 22時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ノン - 初めてコメントさせてもらいます。キミ声にハマって、何度も読ませてもらって、何度も涙して、ニカ中毒になりました。(笑)ニカsideも楽しみに読ませてもらっています。楽しみがまた増えました。ありがとうございます。あいさんの言葉の表現、大好きです。 (2017年4月23日 23時) (レス) id: d6afd85c10 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナナさん» 実は、見つけてたんです(ノ∀`*)ンフフ♪ なんか、こういううっかりしてそうじゃない?(笑)まだまだ、距離を置いて慎重なニカが、この距離をどうしていくのか、楽しみにしていて下さい!バンザイ! (2017年3月29日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - きななさん» バンザーイ!二階堂くんにバンザーイ! (2017年3月29日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ナナ(プロフ) - カギ見つけてたんだ!探したはずのポッケに入ってたとか本当にやってそうだなー(笑)ってニヤニヤしちゃった(°▽°)いつから「ニカ」が「高嗣」として接して行くのかとか、楽しみで仕方ないっ!ばんざーーーーい!! (2017年3月27日 10時) (レス) id: 6cd6e0891b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:植尾あい | 作成日時:2016年12月25日 22時