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結局は ページ7

「いやぁ、アレは、ないわ。ンフフフ」


何とでも言うがいいさ。

私の腹の虫を小馬鹿にされること数回。
いちいち反論するのも面倒になって、笑いながらも、だいぶ遅くなった夕食の準備を手伝ってくれるニカに、カウンター越しに食器を渡す。

さすがのニカも、完全にぶち壊した空気を修復することも、押し通すことも出来ず、「ご飯食べよ。それからにしよ。」と、いいんだか悪いんだか微妙な言い回しで、その場をリセットして、あの部屋を後にした。


正直なところ、


ダッサいTシャツを見られずに済んでホッとした、7割。

離れていくニカの温度に後悔した、3割。


リビングに移動して、電子レンジフル稼働、そして、軽く追加して作る三つ葉入りの玉子焼き。

また、ニカの為に、食事を作れることに幸せを感じていた。



カウンター越しに眺めるリビング。


ローテーブルにならぶ、2人分の食器。


クッションに埋もれる、ニカ。



全部が幸せな今で、なくしたくない未来。



当たり前ではない、この奇跡のような恋が、また、この部屋にあった。



「あ、ビール!」


視線の先のニカが、ペタペタと裸足でキッチンへ戻ってくると、冷蔵庫の扉を開ける。


「一応言っておくけど、人んちの冷蔵庫は、勝手に開けちゃダメなんだよ?」

「Aちゃんの冷蔵庫は、オレの冷蔵庫だから、いいの!」


堂々と言い切るニカの手には、あの日の凹んだ缶ビール。


「ジャイアンか。」

「ジャイアン、嫌いじゃないよ。」


ニカの中のジャイアニズムにつっこんだ筈が、変な方向に受け流されて、行き場をなくした私の手をニカが優しく握る。

その手は、缶ビールに触れたせいか、少し冷たかった。

片手で2本の缶ビールを持って、もう片方で私の手を引く。


器用で強引。


「食べよ!お腹の虫に、邪魔されないように!イヒッ」


意地悪に笑って、我が物顔でクッションに座る。


意地悪で自分勝手。


「ひとこと余計。」


私の言葉なんて、ちっとも耳に入ってなくて、それでも、綺麗な指先を揃えて、丁寧に「いただきます。」って言う横顔は、私の好きなニカの仕草の一つ。


「どうぞ、めしあがれ。」

「玉子焼き、ガッていっちゃっていい?」

「お醤油、少しかけた方が美味しいよ。」


礼儀正しいのに、ちょっと世間知らず。


どこを切り取っても、ニカは、ニカで。


私は、そのどの部分だって愛しくて。


「うまっ!」

「それは、よかった。フフッ」


その全てが大好きだ。

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りな(プロフ) - こんにちは!昨日この作品を読み始めてハマってしまいもう読み終えてしまいました!あいさんの作品大好きです!もし差し支えなければkis soulのパスワードを教えていただきたいです!20歳のにかみつ担です!  (2020年1月21日 23時) (レス) id: f006de2d90 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - kanonさん» kanonさん!何度も読み返していただけて感激です!こんな長い作品を夜中に一気読みとは、夜更かしさせてしまいましたね……ニカsideも、何度も読み返したくなる作品になるよう、頑張ります! (2019年1月7日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
kanon(プロフ) - 何度読み直しても2人の空間にやられます!夜中に一気に読んでぼろぼろ泣いてしまいました。ニカのワンコ力、察知能力、優しさ、言葉…彼らしさがふんだんに盛り込まれてます。ニカサイドと交互に読んであちらの続きもお待ちしてます! (2018年12月24日 2時) (レス) id: 21ebf13f97 (このIDを非表示/違反報告)
植尾あい(プロフ) - ナツさん» 読み返してもらえて嬉しいです!ありがとうございます!個人的に北山くんと二階堂くんのやり取りを書くのがとても楽しくて好きなので、ミツ担さんにも好きになってもらえて感激です!北山くんと彼女もいつか書けたらなぁと思ってます! (2018年8月4日 17時) (レス) id: 2cc18cecc9 (このIDを非表示/違反報告)
ナツ(プロフ) - 初めましてのコメント失礼致します。本当に本当に大好きな作品で事あるごとに読み返してます!あれ?私、ミツ担のはずでは!?と自分でも整理できない感情はどこへ向ければいいのでしょうか?笑個人的にはミツの彼女さんとの馴れ初めも気になります♪ (2018年8月3日 8時) (レス) id: 8a0cb53120 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:植尾あい | 作成日時:2016年6月24日 7時

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