新たな旅立ち ページ34
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春。
潮風のつめたさが心地よく感じる。
ずいぶん暖かくなってきた最近、実家の庭先の桜はもう２、３日もすれば満開になるだろう。
自分は幸せになっちゃいけない、なんて。
卑屈で後ろ向きだった少女はいま、新たなスタートを切ろうとしていた。
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「……これもいいし、こっちのもいいなあ。
あ、でもこの海老が入ってるのも美味しそう」
すぐそこのロータリーの、中央の花壇に立てられた『ようこそ！』の文字。
いくつか停まったマイクロバスには、旅館や遊楽施設のロゴが入っている。
観光地ならではの___________過疎化の進む田舎ならではの___________見慣れた景色。
「迷うな〜〜」
「どれも変わらんがな！ほらこれでええやん、村上水産場の海苔の佃煮弁当」
「えぇ、だってそれ信五いっぱいくれたじゃん。海苔の佃煮、キャリーケースの中パンパンだよ」
うれしいけど、と付け足せば、信五はニカッと八重歯を見せて笑う。
……当分は白米に佃煮生活だな。
マンションの一部屋で黙々とそれを消費する自分を思い浮かべてすこし寂しくなるのは、仕方ない、何せひと月もこのあたたかい場所に居たのだから。
「結局何にしてん？」
「海老の」
「……えらい豪華なん買うたな」
特産品の並ぶ土産物屋を離れ、駅に向かう。
となりを歩く作業着を着た信五。
今日彼は家業である海の仕事を抜け出して来てくれたらしい___________中学から長らく連絡すら取っていなかった、顔も合わせていなかった幼なじみ。
そんな信五ともこうして再会できた、今年の春。
「ん？」
わたしの視線に気づいた信五が首をかしげる。
「……なんやねんな？」
「なんでもない」
ほんとうにすてきな春だった
「姉ちゃん、切符買っといたで！」
わたしの弟は今日も天使だ。
特急車の切符を片手にぱたぱた駆けてくる、褒めてほしそうに小犬のような目で見つめてくる亮は昔から変わらない。
「ありがとう、亮」
「おんっ」
それこそ反抗期真っ盛りの中２男子とは思えないほど、彼はにこにこと笑っていたけど。
みるみる内に眉が垂れ、大きな目を潤ませてわたしの服の裾を掴む。
「……ねーちゃん、ほんまに帰ってまうん？」
……ああ、やめてほしい。
ほんとに帰りたくなくなってしまう。
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タルヒ(プロフ) - ショウタくん生きてて良かったです。兄弟って似るんですね。すばるくんも章ちゃんも好きにさせちゃう女の子ってどんな子なんでしょう笑 (2019年3月17日 13時) (
レス) id: d9b43e6eea (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 多恵子さん» 多恵子さん！お付き合いいただきありがとうございました^ ^章大くんとすばるくんの仲良し兄弟、わたしもとっても大好きです。そう言っていただけるような作品が書けて本当に良かったと思います(TT)ありがとうございました！ (2018年8月30日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - めちゃさん» めちゃさん！お付き合いいただきありがとうございました^ ^もったいないお言葉…うれしいです。書いてよかったと心から思います(TT)次はもっと楽しんでいただける作品が書けるよう頑張りますね！ (2018年8月30日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
多恵子(プロフ) - 完結お疲れさまです。章大くんが弟思いで死んじゃうところで思わず涙が出てしまいました、…こんな素敵なお話をありがとうございます。最後の、すばるくんの後五年まっとけ、は章大くんと似てるのか似てないのか。全てのキャラが素敵でした。ほんとに楽しかったです！ (2018年8月29日 8時) (レス) id: 2178e0ef46 (このIDを非表示/違反報告)
めちゃ(プロフ) - 完結お疲れ様でした。なかなか難しいお話でしたが引き込まれていました。行った事のないはずの景色が見えるようで登場人物がどれも素敵で。それからいつの頃からか私の頭の中にまで「ノスタルジア」が鳴ってました。また次作楽しみにしています。 (2018年8月28日 22時) (レス) id: 994f71b8c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年4月1日 18時
