逢う魔が時 ページ14
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わたしは走り出していた。
おどろいたような亮の声を振り切るように。
しずかな夕方を裂くように。
「姉ちゃん！どうしてん！姉ちゃん！」
「ごめん、亮っ……ちょっと借りるね！」
弟が外まで追いかけてくる。
わたしはすでに、カゴにヘルメットの入った彼の自転車に跨り、ペダルを踏んでいる。
行かなきゃ。
行かなきゃ。
庭先にぼうぜんと立ち尽くす亮を置いて、全速力で走り出した。
もっと速く。
もっと。
自転車なんて何年ぶりに乗っただろう。
ましてや、この田舎道を走るなんて。
まさにそう、中学生だったあの頃以来。
滑稽なんだろうな。
立ち漕ぎで、乱れた髪で自転車に乗る女。
だけどそんなこと、気にしていられなかった。
そんなことは、もう、どうだってよかった。
見慣れた家が見えてくる。
二階の窓辺、深緑色のカーテンが揺れる。
ベランダに、煙草を咥えた青年の姿。
何故だか、涙が込み上げそうになる。
「忠義っ……」
息が苦しい。
わたしの引き攣ったような声が、届いたのだろうか。
こちらに気づいた忠義が、慌てたようすで家のなかへ踵を返す。
「A！？」
クロックスを履き、道路に飛び出してきた彼はわたしの名を呼ぶと、無意識だろう_____________その逞しい腕を、そっと広げた。
わたしは迷わずその腕のなかに飛び込んでいった。
ほとんど乗り捨てる形になった自転車が、カラカラと音を立てて車輪を回している。
過呼吸気味の呼吸を、忠義の心音に合わせるように落ち着けていく。
「忠義……忠義」
「どした？ゆっくりでええから……」
困惑したような、やさしい声。
もう、はっきりしている。
宥めるように背中を撫でてくれるその手のひらを、わたしはずっと、ずっとあいしていたのだ。
ずっと。
「……忠義。
久遠の花って知ってる？」
すこしずつ整う息とともに吐き出した言葉を、彼は首をかしげて訊き返す。
「久遠の花？
なんやっけ、なんか聞いたことあるような……」
「亮から聞いたの。神楽をやったときに教えてもらったんだって……
久遠神社の本殿のなかの絵、覚えてる？
守護神獣の中心に描かれた、不思議な色の花」
「……思い出した。たしか、時間を司るっていう」
そこまで言い、忠義は信じられないとでも言いたげな表情を浮かべた。
わたしはその顔を、いたって真剣に見上げる。
昼が薄れてゆく空。
滲む宵。
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タルヒ(プロフ) - ショウタくん生きてて良かったです。兄弟って似るんですね。すばるくんも章ちゃんも好きにさせちゃう女の子ってどんな子なんでしょう笑 (2019年3月17日 13時) (
レス) id: d9b43e6eea (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - 多恵子さん» 多恵子さん！お付き合いいただきありがとうございました^ ^章大くんとすばるくんの仲良し兄弟、わたしもとっても大好きです。そう言っていただけるような作品が書けて本当に良かったと思います(TT)ありがとうございました！ (2018年8月30日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
べに(プロフ) - めちゃさん» めちゃさん！お付き合いいただきありがとうございました^ ^もったいないお言葉…うれしいです。書いてよかったと心から思います(TT)次はもっと楽しんでいただける作品が書けるよう頑張りますね！ (2018年8月30日 23時) (レス) id: c68c31e30a (このIDを非表示/違反報告)
多恵子(プロフ) - 完結お疲れさまです。章大くんが弟思いで死んじゃうところで思わず涙が出てしまいました、…こんな素敵なお話をありがとうございます。最後の、すばるくんの後五年まっとけ、は章大くんと似てるのか似てないのか。全てのキャラが素敵でした。ほんとに楽しかったです！ (2018年8月29日 8時) (レス) id: 2178e0ef46 (このIDを非表示/違反報告)
めちゃ(プロフ) - 完結お疲れ様でした。なかなか難しいお話でしたが引き込まれていました。行った事のないはずの景色が見えるようで登場人物がどれも素敵で。それからいつの頃からか私の頭の中にまで「ノスタルジア」が鳴ってました。また次作楽しみにしています。 (2018年8月28日 22時) (レス) id: 994f71b8c3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：べに
| 作成日時：2018年4月1日 18時
