145 ページ45
視線をふっと移すと、横のテーブルの上には、おそらくこの複数の手錠の鍵と思われる束が転がっている。
けれど、椅子に座ったまま手足を縛られて、手も足も伸ばせず、体をひねって椅子を動かしても、あの机には届かない。
初めのうちは頑張ってもがき続けていたけど、今となっては無駄なことはもうしない。
そんな時でも、頭の中に蘇るのは、俺がジントと呼ばれていたあの日々。
もしも、あの時俺がピクニックに行こうなんて言わなければ、こんなことにはなっていなかったのかな…。
いや、あの女の事だ…。
いずれこうなっていただろう。
いまさらそんなこと悔やんでも、どうしようもないというのに。
けれど、やはり後悔はいくらでもある。
お別れになったあの日、何でもっとちゃんとお別れを言わなかったんだろう。
何でもっと好きって気持ちを伝えなかったんだろう。
それで何が変わったとは言わないけれど、もしかしたら、ほんの少し何かが変わっていたかもしれない。
こんな風に、後悔に苛まれてこの部屋で待つこともなかったかもしれない。
仁人「Aちゃん……」
あの女がいない今だけは、いくらでもAちゃんのことを考えることができる。
でも、もう二度と会えない彼女のことを思うと、涙があふれてきて、止まらないんだ…。
彼女を守りたい、なんてカッコイイことを言ったけれど、実際は、こんなに未練たらたらで、こんなに会いたくて、こんなに…
それからどれぐらい経ったのか。
時計も窓もないから、今が何時で、朝なのか、夜なのかもわからない。
もしかしたら数分しか経ってないかもしれないし、何時間も経ったかもしれない。
そんな途方もない時間の感覚の中、この寂し気な部屋にあるたった一つしかない扉がガチャガチャと音を立てた。
あぁ、もう帰ってくる時間か…。
俺は気持ちを切り替えて、あの黒い服の女を愛してあげるために少し身構えた。
今度はどんなことをされるのか、それすら、もう考えないようにしよう。
言われるがまま、俺はそれに従うだけだ。
そんな風に、心の準備を整えたのだ。
「"ジント君"！！！」
仁人「え……？」
しかし、俺の耳に聞こえてきたのは、思っていたのとは随分と違うものだった。
何であの女がその名前を…。
俺は顔を上げて、扉の方を注視した。
するとそこには、いるはずのない人が立っていたのだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 42人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
milkssss(プロフ) - ひぃさん» いえいえこちらこそ変な捉え方をしてしまい申し訳ありません！続きも頑張りますのでよろしくお願いします！ (2020年3月8日 15時) (
レス) id: 81ca320fbb (このIDを非表示/違反報告)
ひぃ(プロフ) - 良い意味で面白い展開で予想外でした！私の伝え方で誤解を与えてしまったようですみません。続き楽しみにしてます！ (2020年3月6日 3時) (レス) id: 6c73ae34c1 (このIDを非表示/違反報告)
milkssss(プロフ) - いちごさん» 感想ありがとうございます！そんな風に言ってくださると、書いてよかったって思います。ありがとうございます！続きも頑張ります！ (2020年3月2日 18時) (レス) id: 81ca320fbb (このIDを非表示/違反報告)
milkssss(プロフ) - ひぃさん» 感想ありがとうございます！予想外になってしまって申し訳ないです…。続きも頑張って書いていきますので、良ければまた読んでくださると、嬉しいです！ (2020年3月2日 18時) (レス) id: 81ca320fbb (このIDを非表示/違反報告)
milkssss(プロフ) - みるくさん» 感想ありがとうございます！そう言っていただけて嬉しいです！今日からまた続きちょこちょこ書いていくので、良かったら読んでみてください！ (2020年3月2日 18時) (レス) id: 81ca320fbb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月26日 19時
