63 ページ13
駄目だよ…。
こんなことしないで…。
こんなことで私をからかうのはやめて！
「放して！」
私は柔太朗の腕を振りほどいて、彼の体を突き飛ばした。
「ごめん…柔太朗…でも…今は…。今は…そんなの…」
柔太朗「…俺の…方こそ…ごめん…」
震える声の柔太朗を背に、私はとにかく逃げるようにその場から走り去った。
きっと彼に私をからかうつもりなんてなかったと思う。
本当に、真剣に、私をつなぎ止めたいって思ったのだろう。
けど、今の私には、そんなの嫌だった。
キスなんかでほいほい付いていくような女には、なりたくないって思った。
「馬鹿…」
馬鹿なのは彼だろうか。
それとも私…？
気持ちの整理もつかぬまま、私は自分のマンションにたどりつき、玄関のドアを勢い良くあけてその中に逃げ込んだ。
ようやくこれで、ちょっとは考えることができる。
落ち着くことができる。
けど、私のそんな浅はかな考えは、すぐに別の不安で埋め尽くされる。
「こ、この匂い…」
部屋の中では、なんだかおいしそうな匂いが玄関まで漂ってくる。
そうだ。
私は一番大事なことを忘れていたのだ。
キッチンには、冷たくなってしまったおいしそうな料理が所狭しと並べられていた。
今日一日、私は彼のことを少しでも考えたか？
今朝の会話を思い出し、私は心臓をえぐられる気分になった。
「Aちゃん…朝ごはん出来たよ？」
「え？あぁ、今日はいらないや…」
「そ、そっか…。じゃあ、晩ご飯何がいいかな…？Aちゃんの好きなもの、作って待っとくよ…」
「うーん…なんでもいいよー」
「あ…うん…。わかった…」
きっと私が、あんな何も考えてない適当な返事をしてしまったから、彼はこんなに料理を作って待っていてくれたんだ。
それなのに私は、なんて馬鹿なんだ。
「ジント君！！」
けれども、いくら呼んでも、ジント君の姿はこの家のどこにも見当たらなかった。
リビングにも、私の寝室にも、トイレにも、お風呂にも、ベランダにも…。
玄関に、彼の靴はない。
どこに行ってしまったんだ…。
こんな適当でどうしようもない馬鹿な私に愛想を尽かして出て行ってしまったのか？
けど、記憶も何もない彼がこんな夜更けに出て行って、事故にでもあったら…。
探しに行かなきゃ…
心配そうに私を見つめるバンビをひと撫ですると、私は玄関の扉を勢い良く開けてその外に飛び出していった。
―
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 47人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
milkssss(プロフ) - ひぃさん» コメントありがとうございます！最後までお付き合いいただけると、嬉しいです！ (2020年2月25日 21時) (
レス) id: 81ca320fbb (このIDを非表示/違反報告)
ひぃ(プロフ) - 続き楽しみにしてます！ (2020年2月25日 2時) (レス) id: f0de405ab0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月19日 15時
