49 ページ49
新幹線の時間があるからと、私の弟で大学生の舜太は、笑顔で手を振って実家のある関西へ帰っていった。
でも、帰り際になんか変なこと言ってたっけ。
舜太「じゃあAちゃん、ジントさんとお幸せにー！ほなまた来るわー！」
ジント君と、お幸せに？
何を言ってるんだあの子。
ジント君の記憶も戻らないのに、お幸せにも何もあったもんじゃない。
きっとジント君にとって、記憶が戻らないことは何よりも不幸なことのはずだ。
それに、それを聞いたジント君も、朝からなんだか顔色が悪いみたいだし、一体どうしちゃったのやら。
「ジント君どうかした？具合でも悪いの？」
ジント「へ…？あ、いや、べ、別に、別に…何でもない…何でも…うん…何でもない…」
何でもないようには見えないけど、本人がそう言う以上、あまりとやかく言うのも失礼だろうか。
それにしても、舜太の言った通り、今年のお盆も、去年の年末も、去年のお盆も、この二年間ほど、色々あって全然実家に帰れてないな。
舜太があんなに元気なら、お父さんもお母さんも多分元気だろうけど、どうしてるだろうか。
今年の年末には帰れるかな…。
それまでに、ジント君の記憶、戻るかな…。
そんな心配をしていると、気が付けば出社時間ギリギリだ。
私は急いで支度をし、ジント君とバンビに挨拶を済ませて家を飛び出した。
「じゃあ行ってきます！」
ジント「い、行ってらっしゃい…」
―
電車で一時間弱。
朝の人ごみにもまれながら、私はクタクタになりながら会社へとたどり着いた。
どうして朝の電車ってあんなに居心地が悪いのだろう。
人が多いだけでもうんざりするのに、皆時間に追われてイライラ怖い顔ばかり。
私もあんな顔してるのかな。
ジント君にそんな顔見られたら、きっと怖がらせちゃうなぁ。
でも、どうすれば彼の記憶は戻るのだろう。
佐野先生が言っていたように、もしも記憶が戻らなければ、ジント君は一生あのまま。
過去の自分、つまり本当の自分がなくなっちゃうってことだ。
あれ…。
そ、それって、考えてみれば、ずっと私と一緒ってことだよね…。
もし彼の記憶が戻らず、ずっとあのままだったら、ずっとこのまま、私と…。
きっと、そんなのジント君嫌だろうなぁ…。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 66人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月17日 15時
