39 ページ39
こんなにちゃんとAさんの顔を見たのは初めてだ。
すぐ目の前にあるその瞳は、とても綺麗だった。
少し驚いて見開かれたその瞳に、俺は少しばかり見惚れてしまっていた。
何故だろう
なぜこんなに見惚れてしまうんだろう
胸のあたりがぎゅうっと締め付けられるような感覚に襲われて、俺はようやく自分が何をしでかしたのか思い出し、どうしようもない焦りと、こんなことをしてしまった罪悪感に苛まれた。
ジント「ご、ごめんなさい！！」
こんな言葉で謝ったって、どうしようもない。
俺はそのまま急いで立ち上がって、風呂場に飛び込んでその扉を閉めた。
何やってんだ俺…
俺は本当…最低だ…
「き、気にしないで！私は全然平気だから！体、冷えちゃったでしょ？もうちょっとゆっくりしてていいからね。本当、大丈夫だから、気にしないで！」
その優しい言葉が、俺の心を更に痛く締め付けた。
―
あれから何をする気にもならない。
できることなら息もしたくない。
だけど俺の体は勝手に息をする。
はぁ…
もうAさんに合わせる顔がない
俺にこんなに良くしてくれた人に、あんなことをしてしまうなんて
罪悪感と恥ずかしさで頭がどうにかなってしまいそうだった。
だから、ずっと顔を伏せて、じっと動かずに蹲り続けた。
それから、どれぐらい経っただろう。
何度かAさんが話しかけてくれたけど、俺はそれを全部聞き流して同じ態勢でうずくまっていたと思う。
気が付いたときには、何やらいい匂いが周りに漂っていた。
こんな時でも、お腹はちゃんと鳴るものだ。
だけど、そんなことは今はどうでもいい。
もう俺の事なんか追い出してくれていい。
どうせ、記憶もないんだから、Aさんがそんな気を使ってくれなくてもいいのだ。
「ジント君、おはよう。今日は一緒に良いところにお出かけしよう」
すると、俺のすぐ横でそんな声がした。
だから、俺にそんな気を使わないでほしい。
俺は最低な人間なんだから…
―
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月17日 15時
