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それから、毎日、その人は俺の病室にやってきた。
佐野さんが言っていた。
あの人は俺を助けてくれたんだって…。
そう言えば、気を失う前にぼんやりとあの人が「大丈夫ですか」って声をかけてくれていたような気がする。
その記憶は、頭のどこかに残っている…。
今の俺に、唯一記憶として残ってる人…。
その人は毎日色んな話を聞かせてくる。
そのほとんどはよくわからない話だったけど、俺の為に何かしてくれようとしているのはひしひしと伝わってきた。
記憶がなくって、何も分からないんだけど、俺の直感がこう言っている。
この人は悪い人じゃない…。
それに、何でだろう。
なんだかこの人が来る時間が、日に日に楽しみになってきた気がする。
もうすぐあの人が来てくれる時間だ。
そろそろ窓から見えるかな…。
あ、来た…。
佐野「何見てるんですか…？」
「い、いや…別に…。ごめんなさい…」
佐野「うん？ふふ、なんだかよく分からないけど、嬉しそうだね」
「え…？」
嬉しそう？
俺が…？
まさかそんな…
佐野「最初の頃より、随分表情が柔らくなったね。あの人のおかげかな？」
「わ、わかりません…」
佐野「そっか…。それより、どうする？あの話」
この前佐野さんに言われた。
このまま記憶が戻らない場合、俺は施設に入ることになる。
そこで、記憶が戻るまで過ごし、最悪の場合、記憶が戻らなければ、新たに戸籍を取得することも可能だそうだ。
でもそれって、俺が俺でなくなるってことなのかな？
いや、今も俺は俺であって、俺じゃないんだけど…。
佐野「そろそろ怪我も治るし、施設に入る準備を進めておかないと…」
「……」
正直言うと、そんなところに行きたくない…。
何も分からないのに、またそんな訳の分からないところになんて行きたくないよ…。
俺…どうすればいいんだろ…。
「こんにちは」
あ…
あの人だ…
何故か、この人を見てたらちょっと胸が高鳴る。
なんだか恥ずかしいような感じ…。
「さっき、お医者さんから聞いたんですけど、もうすぐ退院できるみたいですね！良かったですね…。無事に怪我が治って…」
俺の怪我が治ったこと…喜んでくれてるのかな…
でもね…
この先嫌なことが待ってるんだ…。
あなたなら…俺の事…助けてくれる…？
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作者名：milkssss | 作成日時：2020年2月17日 15時
