甘い誘惑【ONE PIECE】 (ページ4)

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シャ「初めて見る顔だな。お前名前は？」

『Aです…』

シャ「そうか、Aか。いい名前だ」

『…ありがとうございます』

シャ「敬語なんかやめろ、堅苦しい。そういやうちのコックもお前のケーキを気に入ってたぞ。近いうちにまた買いにくる」

『あ、はい…ありがとうございま…ありがとう？』

なんというか直感でこの人は天性の人たらしだと思った。

どこに行っても誰とでも仲良くなれるタイプ。

気づいたらみんなが

彼の周りに集まってくるようなタイプ。

この人が赤髪のシャンクス…

四皇と呼ばれるくらいだから

とんでもなく恐ろしい男を想像していたのに

目の前にいるのはただの気さくな男だった。

それからというもの航海から帰ってくる度に

わたしの店に来るようになった彼は

「お前の作るチョコは世界一うまい」

「お前は天才だ」

とか褒め言葉を並べて店に入り浸るようになり、

まるで彼の策略に嵌められたかのように

わたしたちの距離はあっという間に近づいていった。

はじめはこんなつもりじゃなかったのに。

わたしがこの島に来たのは…

ううん…この島を選んだのは

ここが赤髪海賊団のナワバリだったから。

もっと言えば

彼らが長い間拠点にしていて頻繁に帰ってくる

どこよりも〝安全な島〟だと思ったから。

はじめはシャンクスと会うつもりも

ケーキ屋を開くつもりもなかった。

本当は身を潜めてひっそり生きたかったけど

人生とは世知辛いもので働かなければ生きていけない。

わたしにはお菓子を作ることしか脳がなかったから

悩んだ末に今の店を開くことにした。

嫌な言い方をすれば

わたしはシャンクスと赤髪海賊団という名前を

利用しているにすぎない。

〝あの人〟から逃げるには

何か大きなものに隠れるしかなくて

それができる最も都合の良い場所がここだっただけ。

だからシャンクスとの距離が近づけば近づくほど

後ろめたい気持ちは大きくなるばかりだった。