甘い誘惑【ONE PIECE】 (ページ19)

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今思えば開店当初はなんとも味気のない店だった。

殺風景だった店内を

こんな風に素敵に変えてくれたのはお客さんたちで

手書きのメニュー表も

子供たちのために用意したおもちゃも…

椅子に添えられたクッションだって

常連さんが店で過ごすとき

腰が痛くならないようにと置いたものだった。

そうやって一緒に作り上げてきた思い出たちを

自分の手で一つ一つ袋の中にしまい込んでいく。

一睡もしないまま作業を続けていると

気づけば

外がほんのり明るくなっていた。

そろそろ行かないと

船が出ちゃう…

必要最低限の荷物を手に

足早に店を出れば

明け方特有の冷たい空気が肌に染みて

心までひりひりした。

その刺すような痛みはきっと罪悪感のせい。

わたしに向けられた信頼や愛情を裏切ることへの

罪の重圧。

けれど、そんな暗然とした感情も

楽しかった思い出と共に

ぎゅっと胸にしまって

わたしは港へと足を進めた。

・

・

『おはようございます』

「ん？Aじゃねぇか。こんな朝早くにどうした？」

貨物船のおじさんが顔見知りで助かった。

『実は隣の島まで行きたいんです。この船に乗せてもらえませんか？』

「別に構わねぇが半日はかかるぞ？貨物船だから乗り心地は悪いし食いもんはねぇし。観光に行くなら何日か待てば客船が出るはずだが…」

『今すぐ出ないといけないんです！』

そう…シャンクスに気づかれる前に出ていかないと。

会ってしまえば決意が揺らぐ。

きっと、〝助けて〟って言ってしまいそうになる。

『その…隣の島にしか売ってないお菓子の材料があって…すぐに必要で…それで…』

「そうかいそうかい。そういうことなら適当なとこ乗って行きな」

『ありがとうございます』

船に乗り込むと

大きな荷物に背を預けて座り込む。

これでいい…

あの人がどれだけわたしのことを好きでも

わたしがビッグマムの娘だと知ったら

きっと幻滅する。

その顔を見ずに済んだのだからこれでよかったの。

だけどわたしは…

例え離れていても

もう二度と会えなくても

あなたのことが大好きだよ

シャンクス…