気がかり ページ34
A)剛陣くんのお父さん…初めまして、初音Aと申します
もはや定型文として何度も交わした挨拶を剛陣の父にもしようとした…が。
剛陣父)おお!アンタがAちゃんか!うちの鉄が世話なってんなァ!!
A)いえ、私の方こそお世話に
剛陣父)にしてもテレビに映るような有名人がチームメイト…オマケにこんっなに可愛いなんてよォ!鉄が羨ましいぜッ!!
「カァーッ!」と痰を切るような、悔しそうに声を漏らす剛陣の父。
A)あ、あはは……
Aの言葉を遮るような圧の籠った話し方にAは怯んで、愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。
チラリと横目で、剛陣に肩を組まれているしのを見ると目がバチッと合う。
しの)『タ、スケテ……タスケテ……』
A)(…ごめん、これは私ではどうにも出来ないよ…)
口パクでそう伝えてくるしのに、Aは無慈悲だと思いながらも自分ではどうにも出来ないと悟り、そっと静かに目を伏せる。
ふと、皆の輪から離れた場所で佇んでいる明日人の姿が目に飛び込んだ。
A)明日人くん…?
ぼーっとした顔で、同じように辺りを見渡しながら彼は、コップを片手に1人で立っていた。
その様子はどこか儚げで、今にもどこかへ消えてしまいそうな…そんな危うささえも感じられた。
A)(…そうか、こんな家族同士でいる中1人は辛いよね)
なんとなく…分かる気がした。
母親を失い、父親もいない明日人の気持ちが。
今、この場で何を思っているのかが…。
A)…明日人く
不安になったAが声をかけようとした、その時。
剛陣)親父、それを言うとAも負けねぇぜ!
A)えっ…?
タイミング悪く剛陣に話を振られてしまった。
剛陣)どうした、なんかあったか?
小首を傾げる剛陣にAはちらりと明日人がいた方向を一瞥するが、既にそこに明日人の姿はなかった。
A)……ううん、私がどうかしたの?
剛陣)そうそう、しのも強えけどAも中々なもんだぜッ!
…どうやら、Aとしののサッカープレイの凄さを父親に話していたようだ。
剛陣父)っへぇ〜…そうには見えねぇけどなァ…
剛陣の父は顎に手を当て、訝しげにAを穴が空くほどに見つめてくるがAはニコニコと愛想笑いを浮かべたまま。
A)(…明日人くん、大丈夫かな)
正直、剛陣家の話にはあまり耳に入っておらず、いつの間にか居なくなった明日人が気がかりだった。
騒がしい中、自動扉の閉まる音がAの耳に虚しく聞こえた気がした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 54人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：39 | 作成日時：2023年8月13日 17時
