淡い期待 ページ21
A)ヒ、ヒロトくん…歩けないから手、貸して?
ヒロト)はあ?
A)またガクッてなるの嫌なの…だから
Aはせがむ子供のように手だけを真っ直ぐヒロトに差し伸ばす。
A)(今日のヒロトくん、優しいから貸してくれるかも…)
淡い期待を抱きながら早く起こしてくれ、と訴えるA。
一方のヒロトは、少々呆気に取られたように口を半開きにして、Aの伸ばされた手を見ていた。
だが、やがて口の端に皮肉な笑みを浮かべた。
ヒロト)一生やってろ、バーカ
A)えっ…!
その手を取らずに、そう吐き捨てるとポケットに手を突っ込み歩いていく。
A)ちょっ!ま、待ってよヒロトくん!
素っ気ないその態度に不満そうに片頬を膨らませたが、そうこうている間に距離は開くばかり。
A)(…期待した自分が馬鹿だった)
そう思いながら手すりに掴まり、ヒロトに追いつこうと歩くスピードを上げた。
黙々と進んでいく中捕まっていてもなお、足元がガクガクと小刻みに震えてしまう。
そして。
A)わっ!?
またもやガクッと足を捻ってしまった。
そして不覚にも手すりから手を離してしまったのだ。
A)(あっ、これダメだ)
変な使い方をしてしまったのか、身体から力が抜けてしまい顔面から地面に打ち付けれそうになる。
ぎゅっと目をつぶりながら覚悟を決めた。
その時。
A)っ!
何者かに強く引っ張られる感覚が伝った。
？)大丈夫かい?
…聞き馴染みのある声だ。
恐る恐る、ゆっくりと目を開き声の聞こえた方へと顔をあげると…。
A)……野坂くん
野坂)間に合って良かったよ
野坂が支えてくれていた。
A)あ、ありがとう…お陰で怪我せずに済んだよ…
野坂から距離をとろうと離れようとする。
だが、また前に倒れ込んでしまう。
その直前に野坂の腕がAの腰に回ったことでなんとか免れる。
野坂)無理しないで、僕に体を預けていいから
A)ううっ……面目ない…
年下である野坂にこうも気を遣われてしまうとは、Aは年上としての威厳もあって恥ずかしくなる。
…元々そんな威厳など無いに等しいと思うが。
野坂)こんなところで何してるの?夜は冷えるよ
A)うん…ちょっとヒロトくんと星を見ててね
野坂)ヒロト君?
Aに合わせてゆっくりと歩いてくれていた野坂が、ヒロトの名を聞いた途端ピタリと止まる。
A)…?うん、でも置いてかれちゃった
野坂)へぇ…
表情にこそ出していないものの、その返事は実に面白くないと言ったものだった。
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作者名：39 | 作成日時：2023年8月13日 17時
