慣れない褒め言葉 ページ20
ヒロト)っ〜〜〜……思っちゃ悪いかよ…
その言葉にヒロトは反射するかのようにAの方へと振り向く。
その顔は、いつものヒロトらしからぬ真っ赤な顔をしていた。
ヒロト)酷いこと言ったのも…あんなの、本当に思ってるわけねーだろ…
水蜜桃のような頬にそっと、手を置く。
その手にAは小さく肩を揺らす。
ヒロト)…俺は本当に可愛いなんて思っても、面と向かって言える奴じゃねーんだよ、バカ!
Aの額に自分の額をくっつけ、自分の気持ちを一つ一つ言葉にしていくヒロト。
そんなヒロトにAは目を見開く。
ガラス細工のように輝く瞳に映るのは耳まで赤く染めあげたヒロトの顔。
A)……変なヒロトくん
ヒロト)っあ?…お前な
そっと、頬に触れているヒロトの手に自分の手を重ねると何かを言いかけたヒロトも口を開いたまま固まる。
A)でも…ありがとう、すっごく嬉しいよ
ヒロト)っ!
Aは目を細めて、縁側で眠る猫さながらの穏やかな表情になる。
その表情にヒロトの心臓は爆発寸前だ。
…Aにとって、ヒロトからの慣れない褒め言葉も素直に嬉しいのだ。
ヒロト)っあー……やめだやめ!これでこの話題はしまいでいいだろ
A)…そうだね
この状況を気恥ずかしくなったのか。
少々バツの悪そうな顔をしたヒロトは片手で頭を掻くと、ふいっとAから顔を逸らして海を眺めた。
…赤くなった耳までは隠せていないようだが。
電飾の光が海に映る明かりのように水面を美しく輝かせている。
A)…肌寒くなってきたね、そろそろ戻ろっか
ヒロト)そうだな
海面を通るひんやりとした夜風に、Aは次第に肌寒さを感じた。
A)一気に冷え込んだねぇ
ヒロト)まあ、海だしな
そんな他愛もない会話をしながらAとヒロトは足を一歩踏み出して、景色を眺めながら歩いていく…が。
A)うわっ!?
歩き慣れたと油断していたのが災いしたのか、Aは足首を右にガクンと捻ってしまう。
ヒロト)ハッ、だっせぇ
手すりに掴まったことで前に倒れたり転んだりは済んだ。
だが、前を歩いていたヒロトにはケラケラと笑われてしまった。
A)…仕方ないでしょう?普段、ヒールなんて履かないんだから……
ヒロト)お前の歩き方が下手くそなだけだろ
…先程までのヒロトはやはり夢だったのかとさえも思ってしまう。
ぐぬぬ、と悔しそうな顔をするAにヒロトは勝ち誇ったような笑みを頬に浮かべた。
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作者名：39 | 作成日時：2023年8月13日 17時
