【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ9)

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朝、ひんやりと頬に冷たさを感じ違和感を覚えて目を覚ます。ぱちり目を開けると目の前には満面の笑みを浮かべる世紀の大天才ムル･ハートによく似た男が氷柱を私の頬に当てていた。ハイハイ明晰夢ね、正直シチュエーションは超面白いんだけど本当に眠いから寝させて。

私に覆い被さっている偽ムルの横腹に躊躇なく蹴りを入れてベッドから落とす。ゴッと鈍い音を立てて床にぶつかった偽ムルは｢痛ーい！｣と笑えばいそいそ私のベッドに帰ってきた。しかも今度は布団の中。氷柱素手で持てばそりゃ寒いよね〜なんて的外れなことを思いながら仕方なく偽ムルを迎え入れる。偽ムルも満足気である。

｢＿＿A、起きてるか？賢者がもう部屋に入ってんだけどよ、紅茶は勝手に使って良かったよな？｣

紅茶？そんなの家に……あーあったかもな、バザールで買ったような気がしなくもない。その程度の記憶だから多分大事なものじゃないので全然飲んでくれて構わない。あと普通そういうのは事後報告じゃない、事前に許可を取ってから出せ。てかそもそも天下の賢者様にお出しするような紅茶じゃ無

ちょっと待て、賢者がもう部屋に入ってる？

『＿＿は？ムル、一旦離し……てかこれまさか本物なの？ああもう今は良いや、ブラッドリーまだドア前に居る？！賢者が部屋に入ってるってどうい……う』

｢あっ、えっと、お邪魔してます……。本当にお邪魔ですみません、いきなり、しかも勝手に……！！｣

ムルを振り払ってドアを開けるとそこには若い女性の姿が。茶色の髪を腰まで伸ばし、いかにも柔和そうな表情で佇む彼女が恐らく賢者なのだろう。こんなワンパンで倒せそうな女が賢者なのか、もっとイケてるイイ女かと思ってた。

ナチュラル無礼は心の中に秘めて、今にも土下座しそうな勢いで頭を下げ続ける賢者をとりあえず落ち着かせる。謝る側は謝ればいいから楽かもしれないけどそういうのは却って相手を困らせるからやめた方がいいと思う、慰めると一言に言えどマルチタスクだ。

『いや、別に良いですけど。話も粗方ブラッドリーから聞いてます。具体的にこの家で何の調査をするんです？』

｢そうですね……えと、その……。｣

『……言い難い話なら私も許可は出せませ』

｢い、いえ！そうではなく……あの……服を……｣

服？と自分の格好を見れば黒のキャミソール1枚。そんなモジモジする程でも無いだろうに、男魔法使いを大勢侍らせてる賢者様は生娘らしい。

私は溜息を吐くとドアを閉めた。早く帰ってくれないかな。