【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ7)

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『こんな夜更けにどういうつもりです？』

「俺が聞きてぇよ家入れろ」

私A、あまりに居場所がないから仕方なく北の国に移住したしがない23歳の科学者。こっちはいきなりやって来た髪の毛モノクロツートンの傷男。ここまで最悪しか想像できない組み合わせも稀だと思う、本当に誰なんだあんたは。

炎に入れると炎の色が変わる物質はもっとあるはずだ、と掻き集めてきたサンプル達に火をつけ始めていたところ突然ドアが蹴破られ今に至る。もしかしてサンプル達の怨念？当然サンプルにも予備があるので安心して出て行って頂きたい。

彼はガシガシと頭を搔くと「こんな危ねえ場所に家なんか作んな」と文句を垂れた。どこから突っ込めば良いのか分からないので私は諦めて家の中に入っていった。もう好きにすれば良い。生憎こっちは突飛な魔法使いに慣れている、大変不本意ではあるけど。

「うおっ気味悪」

『人の研究室にケチ付けないでください』

「てめえ人間だろ？魔法使いみてえな部屋だな」

当たり前のように家の中に着いてきた彼は辺りを見回すと興味深そうに時々立ち止まったりして私の部屋を物色した。毒々しいほど鮮やかな液体が沸騰するとそれを何の恐れもなく覗き込んだりと、魔法使いはどうも人間の為すことに危機感が無い。あの人もそうだった。

彼はドカッ！と図々しくソファに座ると正面に座るよう促して来た。家主は俺とでも言いたげな雰囲気に辟易しながらも正面に座って足を組む。

「……順応力ハンパないな。」

『北の魔法使いってこういう所ありますからね。』

「もしかしてテラの女か？」

『残念ながら女じゃないね、友人。』

思わず敬語が外れて言い直そうとするが彼は手を振り気にするなといった雰囲気を醸す。テラはまあまあ北でも強かっただろうし有名でも可笑しくない、でもピンポイントでテラの名前が出てくるのは些か不思議だ。別に追及しないけど。

彼はふうんと言うと周りの研究道具達を眺め始めた。普段魔法でなんでもササッと片付けてしまう彼らにとってはこういう細々したものが珍しくて仕方ないんだろう。魔法っぽいのに魔法じゃない物の9割が私の研究室に詰められている。魔法科学は論外である、あれは魔法のお零れ。

貰い物の蝶の標本をまじまじと見つめる彼を横目に私は作業をするため部屋の奥へと戻って行った。帰ってきてもし標本が盗まれてたら、新しいものを貰いに南まで歩こう。