【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ13)

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ここらは夕方のこの時間がいちばん綺麗で、どこまでも続く雪原が薄橙色に染まる。あちらの方角に故郷の西の国、あっちに中央の国がある。賑やかな場所が大好きなテラは西も中央も好きだったから、よくこのテラスから箒に乗って旅立って行った。

北の国でも比較的温暖なこの場所は吐息が白くならないこともしばしば。今日は少しだけ白くなるけど、生身の人間でも耐えれそうな寒さだ。

「おまえ、変態なの？」

『急に何？』

「何でそんな薄い服ばっか着るの？どう考えても人間のお前にこの気温は寒いだろ、もしかして学者なのに馬鹿なの？」

疑問文だけで会話を進行するな。いきなりフェンスに腰掛ける形で現れた灰色髪が呆れた顔でこちらを見やる。

どうしてって言われてもこれ以外に部屋着が無いんだよな。あと寒さは正直暮らしてれば慣れる。確かに見た目にはかなり寒いかもしれないが、私は肌が白くて雪国だと余計見栄えするので生足でも別に景観的に問題は無い。

『心配してるんだ、北の魔法使いのくせに。』

「する訳無いだろ。イカれてるって馬鹿にしに来ただけ。」

『寒さに関しては大丈夫。慣れてるし、そこまで長時間ここに居るわけじゃないから。』

ガウンを羽織っていると言えど寒そうな私の足を凝視した後、フンと鼻を鳴らして視線を景色に移す灰色髪。ここらは彼にしたら暖かくて違和感があるのかもしれないが、些か表情が柔らかいのでまあまあ気に入っては居るんだろう。一々聞いたりはしないけど。

私は賢者が来る前にワインを開けてしまった。美形を肴に飲むのも悪くないとテラが言っていたのを、今なら理解できるかもしれないと思った。

「もう飲んでるの？待てが出来ない悪い子だね。」

グラスを置いた音に振り返った彼の髪がオレンジ色に反射する。……本当に悪くないな、美人を肴にするのも。

彼はふと何かに気付いたように私の背後へ目をやった。私も釣られてそっちを見たが誰も居なかったので、恐らく賢者の気配を感じ取ったのだと思う。彼は徐に柵から降りてこちらへ歩み寄ってくる。

「口開けて。」

『はいはい、お気遣いどうも。』

「フフ、賢者様が頑張って作ってくれた食事よりどこの馬の骨か分からない僕のシュガーを選ぶんだ。おまえって酷い女だね」

『私からしたらどっちもどこの馬の骨か分かんないから大差ないよ、あと強いて言うならどっちも選ぶし。……やっぱり美味しいな、これ。』

彼はつまんなそうに鼻を鳴らすと煙のように消えた。同タイミングで賢者様が大量の皿をプレートに乗せて現れた。