【まほやく】雪降る科学者のソナタ (ページ1)

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プロローグページ1

.(賢者視点)

その日、奇妙な夢を見た。

猫は騒いでおらず、月も大きくない……というかまず見えない。それなのにどうしてか、あの日を思い出すような真っ暗な夜の中に私は1人で居た。思わず寒気が走る、私は今どこに居るのだろう、皆はどこだろう、と宛もなく歩き続ける。

｢月が見えない……？｣

「そうだね、賢者様。僕が隠してしまったよ。」

「……誰ですか？」

背後から聞こえた甘い声に振り向けば、長い金髪を優雅に揺らしながらコツ、コツ、とヒールで此方に歩み寄ってくる長身の男。一目で分かった、彼は間違いなく人間ではない＿＿魔法使いだ。

じりじりと後退する私に彼は目を細めて笑い、ふわりと私の腕を掴んで空中浮遊を始める。魔法舎の誰よりも優しく紳士的なエスコートに、いけないはずなのに思わず胸がときめいてしまう。

浮いて、浮いて、雲をつきぬけた。まだ月は見えない。

彼は徐に口を開いた。

｢賢者様、僕の想い人をどうか宜しく。北の国で1番暖かい所に住む、厄災よりも残酷で、月光よりも儚い、賢くて美しい僕の大好きな人間だ。どうか、どうか……。｣

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縋り付くような彼の声で目が覚めた。

私はどうしてか、泣いていた。

……何だか不思議な夢だったな。朝の支度をしよう。