夜食 ページ3
「...あれらっだぁ、おやつは?」
「え〜?もうないんじゃね」
「うそだ...」
がっくり項垂れる私を横目に、らっだぁは髪を乾かしている。ぷわぷわと漂うシャンプーの香りと湿気で、首の裏からじわじわ汗が出てくるのを感じる。
アイスも、クッキーも煎餅もグミもゼリーもない。時計を見ると10時10分を指していた。コンビニへ行くにも湯ざめしてしまう。
「ん、どうしよ」
「今日はやめとけば〜?明日買えばよくね」
「ちが〜う」
今食べたいんだよ。今が一番美味しいんだってば。なんてぶすくれる。自分でもこれは可愛くないなと感じつつ、もう一度無駄に冷蔵庫を漁った。なにもない。冷気がふんわりと首に流れた。
お風呂上がりの体がどうしても甘い物を食べたいと騒ぎ出す。楽しみにしてた分の期待が反比例のグラフのように、ゆるゆると降下して行くのを感じた。
「あーあ、どうしようかな」
ちらっと横目で見ると、ソファを贅沢に全部使って横寝。しかも足まで組んじゃってる。この男…
もうちょっと私のおやつについて協力的に考えてよ、と、らっだぁの上にのっしりもたれ掛かりながら言うと、らっだぁは涼しい顔でいった。
「じゃあさ、あれは?前買ったやつあるじゃん」
なんのこっちゃ、と思うが早いが、はっと思いつくのは戸棚に封印したはずのあれ。
「ああ、あれ?……んー、でもさあ、それっておやつっていうかさ〜…」
夜食。
二つの声がぴっとり重なる。これほどまでに背徳感のあるものもそうそうない、やるなら今日だけだ、今日しかないと、心の中の悪魔(目の前のぐうたら男)がそう言いたげに、ニヤリと笑った。
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3年前に買ったアラーム付きの電子時計…アラームは、設定してないけど…が、11時を静かに知らせる。それと同時に、二つのカップの蓋をペリペリとすべて剥がしてしまって、蓋の上であっためてたスープのもとと、かやくを全て入れる。箸で少しほぐすと、途端に黙々と湯気が鼻先と頬とをじんわり濡らした。
「ん、ひさいさにたへうとうまい」
「くちに入れながら喋んないでよ、…んあ、おいし」
濃い味噌の香りが広がって、しあわせなきもちになる。これはある意味罪だね、とらっだぁがぼやいていた。
「いいのかな、こんな…こんなことしちゃって」
「いーんだよ別に、Aの方がさっきまでノリノリだったじゃん」
ズズ、と控えめに麺を啜りつつ、らっだぁは言う。それもそっか、なんて納得してしまう私も私で、なんだかなあ。
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作者名:おてらのおしょう | 作成日時:2022年8月5日 17時