- ページ32
.
“あぁ、泣いている”
そう思ってタクシーに飛び乗った。
1日の何処かでAが俺の事を思い出してくれたらいい。
今日も電話が来るのかなって俺の事を頭の中で思い浮かべてくれたらいい。
そんな気持ちで一方的に始めた電話に
初めてAが声を出してくれた。
｢私は…だれも好きじゃない｣なんて。
アイツの事が大好きな癖に。
アイツが好きだから
ちゃんと俺と距離をとっていて
アイツが好きだから
ラインも既読だけで返さなくって
アイツが好きだから
電話も出ないか、声を発さないのに
君は今、声を発した。
彼氏がいるのに気持ちを伝えてきた女々しい学生時代の元カレに。
“たーくん”なんて、あの頃の呼び方で。
｢呼んだでしょ？来ちゃった｣
｢ふ、じがやさん｣
俺を見た瞬間泣き出す彼女を抱きしめながらリビングまで歩く。
…タクシー飛ばしてきてよかった。
AからのSOSに俺が気が付かない訳が無い
｢A泣いてんの｣
｢…ふじがやさんのせい｣
｢A辛そうだね｣
｢…ふじがやさんのせい。｣
｢ふふ、いいね。ぜんぶ俺のせいにしちゃお｣
｢…来るとは思ってなかった｣
｢来るよ。A泣いてるんだもん｣
柔らかくキスをすると、意外にも素直に応えてくれたAに頬が緩む。
｢寂しくなったら俺がこうやってぎゅってしてあげる｣
どうしようもなく好きだから。
思考が回らないくらいの激しいキスをしてアイツを消して
君が今感じるもの全てが俺だけになって欲しい
そんな風に願いながら、なんてことは口が裂けても言えないけど。
息があがりながら見つめてくるAの顔は
高校時代には感じられなかった大人な視線で。
｢何？その顔｣
｢…｣
｢言ってくれないとわかんないよ｣
俺が意地悪するとさっきまで泣いていたはずの彼女は
｢太輔は、どんなに忙しくても
私に連絡してくれる。電話もしてくれる。
寂しくて苦しくて死にたい日にこうやって颯爽と現れて抱きしめてくれる。
…それはこれからも変わらないのかなぁ｣
悲しそうに笑った。
アイツと何かあったのはなんとなく分かる。
…それを利用するんだ俺は。
この世界がどうなろうとただAが欲しい
アイツを見つめるAの横顔は一切入り込む余地なんてなかったけど、今なら。
だからもし、この機会を逃したら俺は終わる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 236人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ジャニーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：れんり。
| 作成日時：2019年6月9日 11時
