3.鴎の声が少し聞こえる ページ4
3.鴎の声が少し聞こえる
「……あの、太宰さん」
横浜の街中。
……の、はずなのだが、ここの辺りに来た覚えはほとんど無く、ただ太宰さんについていくばかりである。
当の太宰さんといえば、「Aちゃん、食べたいものある?」と聞いてきただけでほとんど黙りっこくりであった。
………どこへ連れていかれるんだろうか?
もしかしたら「気に食わない」という理由で、どこかに連れ去られたまま存在を消されてしまったり……?
いや、それか人身 売買などもない話ではない。
異能も何も持っていない私は、異能力者である彼に何の抵抗もできない。
つまりは、黙ってついていき、抵抗せずに待っている以外に道はないのだ。
………そういった被害妄想を繰り広げているうちに、太宰さんの私を呼ぶ声が聞こえた。
あわててそちらを見ようとした時、ふと陽の光が逆光になったのか眩しさに目が眩んだ。
目を片手で覆いながら彼の居るであろう方角を見つめる。
すれば不意にもう片方の手を握られ、また踵を返して歩き出した。
「……、そういえば最近外に出てないと思ってね。外は嫌いかい?」
「えっ、いや………。……何も考えなくてもいいから、嫌いではないですけど……」
そう返せば、そうかいそうかい、とにっこり笑って喫茶店の扉を開けた。
……この看板、毎日見てるぞ。
そう思い慌ててあたりを見回すと、そこは武装探偵社のあるビルの真ん前、つまりは喫茶店「うずまき」の前だった。
……あれ、じゃあなんで今まで歩いてたんだろう。
______最近、外に出てないと思ってね。
………なるほど、そこでようやく合点がついた。
「ほらほらAちゃん、早く入ろう」
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作者名:竹ノ狐。 | 作成日時:2017年3月13日 1時