ねぇ、お願い。【文スト】

▽ ページ32

「A...」


君はいつから、そんな

私の手の届かない、遠く、高いところへ行ったんだい？

「A...まで...置いてくのかい」

私しかいない、妹の自室。

妹の大好きな爽やかな、ミントのような臭いがする

鼻にスーっ、と抜けて普段は気持ちいいが、今は最悪な感覚でしかない。



「このカッター...」

数ヵ月前、姿を消したカッターだ

こんなところ...に


「血が、付いてる...？」

古い血に新しい血がある

古い血は、私が切った時のものだろう

新しい...血は？


「あの子がいつも巻いてた包帯って...」


ﾄｻｯ

カッターの差し込まれていた棚から、ノートが落ちた。

「これは...日記？」

4年前の...？？
＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿
◯月◯日

転生したらしい

この子の日記を見る限り、一人称は私であったようだ

そして、冷たい兄

似ている、と直感的に思った

転生前は、愛されていなかったから

でも、母親から包丁を振り下ろされることがなくなると思うと、安心した


おそらく、これは憑依転生のようで、違うのだろう

前世の記憶が入ることによる錯覚

いつ前の人格が戻ってもいいように

日記として、残しておこう


太宰さん、この日記を見ているのならわかるでしょう

ボクは、貴方の妹でありそうではない

でも、これだけは言わせてほしい


ボクも私も、同じ体であり同じ家族である

私じゃなくてボクでも

貴方に、妹として認めてほしい



きっと、私がそれを望んでる

お兄ちゃんって、笑いながら言える日を

今はもういないけど、待ってるから

＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿


「転...生...？」


今まで感じてた違和感は、そういうことか


今の妹は確かに11年前から確かにいた

その頃は、私だっただけ。

前世の、記憶が無かっただけ

私という妹は、四年前に消えた


消えたと同時に、ボクが生まれた

今の、妹が。


「なんだ...そっか、そうなんだ」


包丁を振り下ろされることがなくなると思うと、安心した

そう確かに書いてある一文に、同情を覚えた


彼女は、きっと＿＿＿＿＿＿＿

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