story 55 ページ12
現にこの任務の指揮権は太宰が握っている。
彼奴の指示を聞き、それを遂行するのが俺達前線部隊の使命。然し、その指示を背けば『反逆罪』となり信頼感を失う。
俺は今まで何回も太宰の指示に従って行動してきた。反論はして来たものの、それを遂行しなかったことはねェ。双黒の任務の時は大体九割ぐらいの確率で彼奴が俺に指示をして俺がそれを遂行する。
正直なところ、彼奴の考える作戦立案もAと同等の文句無しの完璧な作戦立案だ。
彼奴の作戦立案は常に先を見据え、驚くことに結末はまるで予知能力でも持ってるんじゃねェかぐらい必ずその通りになる。
「…ッかはらさん、中原さん！」
俺はその瞬間、はっと現実に引き戻された。隣を見れば芥川が心配そうな顔で此方を見ていた。
芥「如何されましたか？何か物凄く考え事をしていたようですが…」
「あぁ、悪ィ。ちょっと考え事してただけだ。すまねェ」
芥「なら僕から一言良いですか？」
そう云って芥川は歩みを止めた。俺も必然的に止まる。
目の前には扉があった。鉄の重装備の扉。如何やら考え事をしながら歩いているといつのまにか着いてしまったらしい。
「あぁ、別に構わねェが？」
芥「僕は以前、ポートマフィア内部に内通者が居るという情報を耳に挟みました。…然し、此処に来てから一度も目を合わせていません。おそらくこの先にいるかと…」
芥川は鉄の扉に手を掛ける。
芥「そこで中原さん。貴方に頼みがあります」
芥「例え内通者が貴方と親しい者であっても、その善の心は捨ててください」
俺はその瞬間、芥川の胸倉を掴んだ。
「手前、先刻から聞いてりゃァ随分と生意気なこと云ってくれるじゃねェか。
善の心を捨てるだと…？はっ！笑わせンなよ。
そんなもん、マフィアに入った時にとっくに置いてきた」
芥「僕はそんな事を云っている訳ではありません」
「…何だと？じゃあ、如何いう意味だよ！話せよ！」
芥「貴方のその部下思いの善の心を捨ててくださいと云っています。確かに貴方は人の死に手に掛けることくらい呼吸をするように当たり前にできる。
然し貴方はその反面、優しさも兼ね備えている。
部下が失敗すれば俺の責任だ、仲間が任務で怪我を負った時には真っ先に駆け付ける。
僕はその心を捨ててくださいと云っています。
ではないと、内通者に手を掛けることは出来ませぬ」
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作者名：アメ玉 | 作成日時：2019年5月6日 14時
