好き以外の優しい言葉を全部Ⅲ【シロクロ】 (ページ5)

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■85.眠り姫ページ5

***

彼女はやっと眠りについたのだろうか。

さっきまで、
この布団を頭まで被っている塊の中で、
ｸｽﾝ､ｸｽﾝ…、と鼻を鳴らす音が聞こえていたが、

それもやっと治まったように思える。

とん、とん、とその布団の上を
宥めるように叩いていた手を一度止めて、
そぉ…っと布団をめくってみると、

泣き疲れて眠っているAがいた。

.

.

Aとはしない、
と君を拒絶する言葉を言ったあの瞬間、
彼女は掴んでいた俺の腕を離した。

そして、そのままベットに潜り込んでしまって、
絶対に顔を見せてはくれなかった。

でもしばらくすると
泣いているような声が聞こえて、
たまらなくなった。

たまらなくなって、抱きしめてしまいたいと思ったが、

布団をめくろうと差し伸べた手は
1歩手前で踏み止まり、
布団の上にのせて、ﾄﾝﾄﾝ…とリズムを刻むように宥めた。

.

どっかいけ、とか離れろ、と言われるのも
覚悟のうえだったのに、

こんな状況でさえ、
俺の手に安心してくれる彼女を心底愛おしく思う。

.

直輝｢………ごめんね｣

.

どうやら俺には、

君を手放す覚悟も、
手放さずに一生自分の側にいてもらう覚悟もなくて、

この曖昧な甘ったるい時間を、
できるだけ長く、できるだけ長く…って、
そればかりに夢中になっていたみたいだ。

***