□08.涙でぼやけた視界の中で ページ8
***
恐怖の最中にも助けて欲しいと呼ぶのは、
決まっていつも彼の名前。
でも今は彼はいない、
自分でどうにかしなきゃと思うのに
頭の中が真っ白になって、何もできない。
口を手で塞がれて、
声も出せずにただジタバタと暴れるけど
男の力に叶う訳もなくて。
……あ、どうしよう、視界もぼやけてきた。
息が苦しい、
酸素が足りない、
やっぱり、慣れないことはするもんじゃない。
意識を手放す直前で、
急に口を覆っていた手が離れた。
.
.
“…いってぇ…ｯ…”
“な、なんだよお前…っ！！”
涙目になって見上げれば、そこにいたのは
.
｢…え、な…なんで…｣
.
みぞおちに一発拳を入れられた男は
半泣きでどこかへ逃げていった。
.
.
直輝｢…ケガは？｣
｢…(ふるふる)｣
男を睨みつけていた鋭い目付きのままの
直輝に思わず怯んでしまったが、
小さく首を振って無事を伝えれば
いつもの優しい直輝に戻った。
.
直輝｢…はぁ、よかった…。
なんでAがこんなとこにいるの…？｣
｢…そ、…それは……｣
直輝｢…ん、｣
｢…ありがと｣
力が抜けてﾍﾀﾘとその場に
座り込んでしまった私に手を差し伸べてくれて、
その手を取ればそのままグイッと抱き寄せられた。
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年1月21日 0時
