□19.気持ちはクレッシェンド ページ19
***
昔のことを考えながらぼーっとしていたら、
随分と時間が経ってしまっていたようで、
夜もだいぶ深まってきた。
時計を見れば22時を回ったところ。
直輝はまだ帰ってきていない。
…なるべく早く帰ってくるからって、
言ったのに。
.
ごろん、とベットに寝転がって
バタバタと足を動かしていたら、
ふと目に止まったのはパンダのぬいぐるみ。
これは直輝がお父さんから貰った大切なもの。
きっと、これには、私の知らないような
色んな気持ちが詰まっているんだと思う。
.
…彼は今頃、あずささんと二人で
楽しくご飯とか食べてるんだろうか。
あずささんは直輝の“彼女”で、
直輝はあずささんの“彼氏” なんだもんね。
当たり前のことだし、
どうしようもないことなのに、
これが羨ましくて仕方がなくなる時がある。
…一番近くにいるのに、
私たちには、越えられない一線みたいなものがある。
.
“俺なんか好きになってもいいことないよ”
“それ以外なら、なんでもあげるから”
.
優しい顔で、優しい声色で、
彼はたまに凄く残酷なことを言う。
.
押し寄せる寂しさを紛らわせるように、
パンダのぬいぐるみを手に取ってぎゅっと抱きしめてみる。
するとふわっと彼の匂いがして、余計に恋しくなってしまう。
.
｢……早く帰ってこないかな…｣
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年1月21日 0時
