□05.「かわいい」 ページ5
***
メモ用紙の隣に置かれていたのは黒いの携帯。
え、嘘、忘れ物…？
私のじゃないってことは、直輝の…だよね？
でも、携帯ってないと困るよね？
うーん…、と少し悩んだ挙句、
彼の大学まで届けることにした。
.
｢よし、…行こう。｣
.
グレーのニットに白のパンツスタイル。
今日は少し肌寒いのでコートは厚手のものを選んだ。
髪もゆるく巻いて、
いつもよりも念入りに化粧をする。
たかが彼の忘れ物を届けに行くだけなのに、
なぜこんなデート前のような
入念な準備をしているのか…、
と聞かれれば困ってしまうのだが、
やっぱり好きな人の前では、可愛くいたい。
.
例え家ではずっと一緒で、
すっぴんも泣き顔も寝顔も
全部全部知られている相手だとしても、
可愛いって思ってもらえるなら思ってもらいたい。
.
もちろん、これはただの自己満足。
あずささんから彼を略奪しようとか、
直輝に私の思いを打ち明けて恋人になりたいとか、
そういうことを思っているわけじゃない。
人生のどん底にいた私を救ってくれたのは彼だ。
そんな彼と、
同じ家にいれて、
時間が合えば一緒にご飯を食べて、
もし体調を崩したり、
昨日みたいに怖い夢を見たら優しく心配してくれて、
…それ以上に何を望むというのだろう。
.
ただ、一方的に私が好きなだけ。
それでいい。
十分だ。
***
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作者名：紙兎
| 作成日時：2020年1月21日 0時
