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「うー、さむ」

冷え込む夜にくしゃみをしながら家に帰る日々。
ったく、今日も飲み会に付き合わされた…………さすがに胃もたれがすごい。
家帰ってシャワー浴びたら死ぬように寝よう。そうしよう。


そう思いながら我が家のドアを開けた。



「あ、おかえり。腹減った」

ドアを閉める。






















なんだ今の。おかしいぞ、一昨日鍵変えたばっかなんだけどな…………。
いや、きっと違う。不法侵入とかじゃないよ、妖精だ妖精。私純粋だから見えちゃったんだわ。


あれは妖精あれは妖精と、心の中で念仏を唱えながら再びドアを開く。


「ん?どした?」

ドアを閉める。









「なあ」

「ヒョッ」

「何してんだお前」


現実逃避をしたかったのに、わざわざ出迎えてきやがったこの男。佐野万次郎は私が小学生、奴が中学生の時になんか知らんけど仲良くなった。昔は喧嘩三昧、ゲーム三昧で良かったよ。
でも今となってどうだ。


家に帰れば何故かいる。

風呂から上がれば何故かドラマを見ている。

ベッドにはいれば何故か隣にいる。



れっきとした不法侵入者。しかも常連さんであった。


「……またピッキングしたろ」

「ちょっと今回難しかったね」

「いくら金かけてると思ってんだ」

「課金ゲームみたいだな」

「払えよ金」

何度も変える鍵の料金は膨大だ。そろそろ懐が危ない。


「結婚したら不自由させないのに」

「した時点で不自由だわアホ」

もう何をやっても駄目だと分かっている私はヤケクソだった。部屋に上がってビールを煽り飲む。胃もたれとか気にせん、記憶が消えれば明日生きれるから。

「なあ、腹減ったって」

「レンチンでもしてろ!!」

「えー、A作ってよ」

「あ?」

「食べたら出てくからさ」

「よし、任せろ」

早速取り掛かった久々の自炊。冷蔵庫にある物で簡単にオムライスを作ってやった。

「おらよ、んでさっさと帰れ」

「お、オムライスじゃん。旗あったら完璧だったけど美味そうだからいいや」

「はっ、舐めてもらっちゃ困るね」

オムライスの上に、くまさんの旗をさしてやる。オムライスは旗が無ければ始まらんだろう。子供のあのワクワクさ、無くしちゃ駄目だよ。


「マジか!Aはやっぱすげーな!」

「当たり前でしょーが」

目をキラキラさせながら私のオムライスを食べると、本当に颯爽と帰っていった。









「そろそろ引っ越すかな」

自分のノリが怖い。

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作者名:薄桃桜 | 作成日時:2021年8月3日 20時

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