空中遊泳

紫煙の向こう側:izw ページ23

二人とも喫煙者
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一人きりで煙を燻らしていた部屋の扉を開けたのはAだった。


「火ください」
「自分のは？」
「忘れました」
「アホなの？」
「ちがいます」


いいから早くください、なんてもらう側なのに少し怒っている彼女の手から煙草を取り、息を吸い込んで自分の吸いさしの先で火をつける。

何度も思うけどかわいい顔におよそ似つかわしくない煙草がなんとももったいない。


「もう12月ですね」
「もうそんな？でもクリスマスのCM増えたなそういえば」
「ケーキとか」
「プレゼントとかね。Aはクリスマスなんかすんの？彼氏いるんでしょ？」
「あー、それは……あの、別れました」
「え、なんで？」
「いろいろあったんですけど、まぁ、煙草やめろって言われちゃったし……」
「あはは、それでかよ」


ヘビースモーカーの俺が人のことを言えたもんじゃないけれど、ここへ来るたびに出くわすAも大概だと思う。
そこへ煙草をやめろだなんてそりゃあ出来ない相談だろう。


「でもあの人だって吸ってたんですよ！なのに自分のことは棚に上げて私にだけ吸うななんて言うから」
「男なんてそんなもんよ」
「伊沢さんもですか？」
「まあ俺も彼女には吸っててほしくねぇな」


俺も棚上げしてるけど、と付け加えると、彼女は押し黙ったまま口を開かなくなった。

Aちゃーん？と呼んでも全く応答がないのでとりあえず2本目の煙草に火をつける。
これで1本で終わりにしとけば俺もやめられそうなのに。まあ無理だろうな。


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