空中遊泳

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「今日帰りは何時ぐらい？」
「あー、何時だろう、オフィス行ってからじゃないとはっきり分かんねぇや」
「そっか。帰り早いなら一緒に呑みたいなと思ってたんだけど、」
「あ、華金？」
「そうだよ、今日ハゲちゃんいないから早く帰って来れそうなの」
「マジかー、じゃあ俺もなるはやで切り上げてこよ」
「無理しなくてもいいよ」


俺が帰ってきてぇの！とちょっとムキになる伊沢くんは、同い年なのに少し子どもっぽくて可愛い。
こんなこと言ったら怒られそうだから言わないでおくけど。


「うわやべ、もうこんな時間じゃん」
「間に合う？」
「微妙」
「走れば何とかなるんじゃない？」
「朝から疲れたくねー」


またバタバタと身支度を整える様はとてもじゃないけど社長には見えてこない。
でもそんな親しみやすさが好きだったりするから、人って分からないものだよね。


お味噌汁を啜っていると、いつのまにか鞄を背負っていた伊沢くんが近付いてきて、頭をポンと撫でられる。

「そろそろ行くわ」
「うん、気を付けてね」
「Aも変な奴についてくなよ」
「伊沢くんみたいな？」
「失礼な奴！」

あはは、と豪快にひと笑いした伊沢くんが玄関へと向かいドアに手を掛けたところで、あ！と今日一番の声が聞こえてきた。

「どうしたの？」
「今日、帰ってきたらプロポーズするから」
「え？」
「プロポーズ！答え考えといて」
「ちょっと、」
「ま、考えなくても決まってると思うけど」

じゃーいってくるわ！の言葉を最後に、ドアの向こうへと伊沢くんが消えていく。



あれ、めちゃくちゃデジャヴ。また言いっぱなし。
しかもプロポーズって、それ、二回目だよね。

落ち着くために口をつけた味噌汁の味が、さっきより薄い気がする。
とりあえず答えは決まっているとして、朝ご飯作り、明日から頑張ってみようかな。



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リクエストより『前作に掲載した「脈絡なんてあったもんじゃない」の続編』でした。
脈絡なんて〜を書いてからそこそこ時間が経ってしまったので、文体など随分変わってしまったような気がしますが…如何でしたでしょうか。

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