↑誰でもない ページ4
『伊沢…』
「ん〜？」
呑気に酒に飲まれている伊沢に問いかける。
『私と伊沢は似てないよね』
すると彼は、はっはっはと大声で笑った。
「似てない」
真顔で言い切った伊沢に何だか悲しくなった。
あぁやっぱそうなのか。
「前まで私達は似たもの同士だとか言ってたのに、どういう心境の変化？」
『ずっと前に。そう思ったってだけ』
伊沢はふーんというような声を漏らして、またビールを煽った。
「似てないけど、俺はAが好きだよ。」
よくわかんない。
人を好きになる以前に自分が好きじゃないのに。
『私は嫌い。私は、私が何より嫌い。こんな半端な私が』
淡々と、言葉を紡ぐのが何より苦しかった。
「ねぇ。」
言葉を遮られ伊沢を見る。
客達の喧騒が、止んだ。
「なら俺が殺してあげよっか」
確かに伊沢の口がそう動き、そう言葉を発した。
間違いない。
身体中の血液が沸騰したような感覚。
妙な得体の知れない高揚感。
そして体に力を入れたところで、伊沢が
「なんて、冗談」
と笑った。
居酒屋を出て、駅に向かう。
今日もまた終電間近。
昼と違ってひんやりした外気。
伊沢は知ってるのかな。
正しいを。
私が誰からも教わることのなかった、
「正しい生き方」を。
知ってるのなら、生きていけるだろう。
私は知らなかった。
これからも知らない。
私みたいな、「生き方」の知らない人達は世界から取り残されていく。
駅のホームで今日も電車を待つ。
人はいない。
2人だけの空間。
「A」
名を呼ばれ振り返る。
伊沢は嗤っていた。
体が倒れる感覚。
スローモーションのように倒れる最中、押されたのだと気づく。
いつか望んだ。
伊沢に突き落として欲しいと。
死ぬのか。
今日死ぬのか。
死ぬんだとして、私は笑えてるかな。
私は、矛盾してる。
こんなに死を覚悟してるのに、こんなに死にたいと思ってたのに。
必死に伊沢に向かって手を伸ばしていた。
あぁ、手が空を切る。
ゆっくり、線路の方へ倒れ込む。
その瞬間、手を力強く掴まれた。
彼は笑っていた。
「自分が誰かわかった？」
私は苦笑した。
あそこで死んでしまえば、「誰か」になれたはずなのに。
そうしなかった私は。
誰にもなれない私は。
『誰でもないよ』
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 15人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
絹田きぬた(プロフ) - もし病院で見かけたら、私、叫んじゃいそうです！「え、なんでなんで」ってwで、そっとそばで見守りますw (2020年6月20日 20時) (
レス) id: 6912973321 (このIDを非表示/違反報告)
葉月(プロフ) - 水上さんですって！？最高ですね。水上さんがうちの近くの病院に来ないかなぁ、(笑) (2020年6月20日 16時) (レス) id: 17b218ff81 (このIDを非表示/違反報告)
絹田きぬた(プロフ) - いろさん» ありがとうございます！！！！！私も嬉しすぎてやばいです！！！！！！！私も好きです！w (2020年6月6日 22時) (レス) id: 6912973321 (このIDを非表示/違反報告)
いろ(プロフ) - あー！！！！！大好きです！！！！！あー！！！まさかそんなところで繋げてくるなんて！！！！！！！感動しすぎてエクスクラメーションマークが！！！！！すごい量に！！！！！好きです！！！！ (2020年6月6日 22時) (レス) id: 5fbef9d1c0 (このIDを非表示/違反報告)
絹田きぬた(プロフ) - 葉月さん» そうです！いい曲ですよね！知ってらっしゃる人がいてよかった！ (2020年6月6日 22時) (レス) id: 6912973321 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：絹田きぬた | 作者ホームページ：
作成日時：2020年5月30日 22時
