「ん」で終わっちゃ駄目ですよ。

夢十夜「四夜」【ふくらp】 ページ29

こんな夢を見た。



広い土間の真ん中に。

長細い青年があぐらをかいて座っている。


その周りには将棋やらオセロやら、知恵の輪、ルービックキューブも。


そんな遊び道具が散らばっている。



ポツンと1人で酒を飲んでいる。

肴は煮しめらしい。



福良さんは酒に酔っているのか少し頬に赤みがさしている。


肌艶がやけにいい。




はてさて彼は何歳くらいなのだろう。


私の年上、5つ6つ上と言われても納得がいくし、

私の年下、5つ6つ下と言われても納得がいく。




『貴方は何歳？』


私がそう聞くと、


「いくつか忘れちゃった」


とナハハ、と笑った。

可愛い笑い声だった。


細っこい指を器用に動かして、将棋なんかを打っている。



側に置いてある煮しめを呑み込んだ。





「僕とオセロしようよ」



彼はニコリと人畜無害そうな表情をつくった。


それにつられて、それなら私もできる、と歩み寄った。




「君は黒ね」



言われた通り、黒を打った。


白で打ち返された。



しばらくやりとりを無言で繰り返した。


彼は何がおかしいか時々ナハハと笑って見せる。

どこを見てもふにゃりとしていそうだが、肩幅のせいか。


妙に男らしい。



その顔に見惚れていると、不意に目があって笑いかけられた。



ドキン、と心臓が跳ねた。

頬が熱い。



隠すように、私は黒を打った。


随分黒が盤面を覆い尽くしている。

これでは勝ってしまう。そう思ったところ。




パチンと彼が白を打った。



すると、黒の半数がひっくり返った。






『あらら』


私が思わずそういうと、彼はまたナハハと笑った。




オセロは負けてしまった。

変わらず強かった。




黒が本当に少ししかない盤面を彼は見つめて。

黒を取って掌に乗せた。



「今にこの黒が百合になるから見ておいて」



彼はまた笑った。

私は一心にそれを見ていた。


なるかなるか、と思うほどまだならない。




「見ててよ」


とは言うものの、特別力を込めている様子もない。



私はひたすら黒を見ていた。

けれど一向に黒は百合にはならなかった。


福良さんは飽きたか諦めたかルービックキューブをカシャカシャやり始めた。




けれども黒は白にひっくり返りそうにもならなさそうだった。

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