「ん」で終わっちゃ駄目ですよ。

伊沢さん:例えば ページ2

例えば、今ここで私の息が絶えたら。

___例えば、今ここで君の命が消えたなら。



貴方はどんな表情をするんだろう。

___俺はきっと悲しみにもがき苦しむだろう。








例えば、私が貴方のもとからスルリと、いなくなったら。

___例えば、君が僕のそばから元からなかったかのように、いなくなったら。




貴方は私を探してくれるだろうか。

___きっと死にものぐるいで君の事を探すだろう。







朝が嫌い。

柔らかい日差し。隣の温もり。小鳥がさえずっている。


貴方が柔らかい表情で寝てる。





温かい全てが、突然嫌になる。

なんでか分からないけど、それらの全てを突然捨てたくなる。

失くしてしまったらきっと私は後悔するだろう。





得体の知れない嫌悪感が私を襲う。





朝の日差しのせい？

違う。




幸せすぎるせい？

違う。




貴方が、幸せそうに寝てるから？

違う。






でもほら、貴方が目を覚ます。

大きなあくびをして、目をしょぼつかせて、くねった寝癖を立てて。


愛しい貴方が目を覚ます。




『おはよう』


「んー、おはよう。」



脳に響く低音。

随分伸びた前髪がダランと垂れ下がる。




『コーヒー飲む？』


「ん。」


『砂糖は？』


「要らない。」





彼は前髪をかき上げて言った。

こんな当たり前の会話でさえ、放り出して逃げてしまいたくなる。







例えば、今、私が別れ話を切り出せば。

貴方は取り乱して、混乱して、私に説明を求めるかな。




例えば、私がその時、理由なんてないって言ったら？

じゃあ別れる理由なんてないじゃん、って当たり前のこと言うかな。




例えば、私がその時本当の事を打ち明けたとして貴方は納得する？

しない、と思うんだ。私は、貴方はきっと納得なんてしないと思うの。



だから貴方には本当の事なんて言わないよ。






『好きなのに…』


「ん？なんか言った？」



『何も？あ、パン焼けたよ』


「ありがとう」




そう言って頬にキスする貴方が。

大好きなの。




なのに。

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