愛を込めて花束を2【降谷零】

09話 ページ7

『今日はラベンダーがオススメだよ。
なかなか切り花は入荷しないからねぇ。』

どんどんと話を進められる状況に調子の狂う感じはしたが、降谷は勧められるがままラベンダーを包んで貰った。
Aよりも長い事働いているというだけあって、その手捌きは見事なものだった。

『延命剤はどうする？入れる？入れない？』

『入れなくて大丈夫です。』

渡された花束は、1つ。
ラベンダーの紫に白いかすみ草が可愛らしく映えていた。
同じものを2つと言わなかった降谷に落ち度もあるが、これではまるで女性へのプレゼントと勘違いされても仕方ない。
この場にAが居ない事が寂しくもあるが、降谷はホッとまた一息ついた。
そして、いつか以来となるブーケを持っての出勤を迎える。



あの時と同じく、降谷は気にも留めていない様子だが、周りは当然騒然とした。
いつか以来、再びブーケを持って本庁に現れた降谷の姿を見て、三者三様。
言うまでもない。
一言で表現するならば”阿鼻叫喚”だ。

部下である風見裕也もその内の1人だった。
そろそろ出勤される頃か、と思っていた丁度その時、入り口のドアがガチャっと開いた。
出勤してきた降谷の姿、厳密に言うと、出勤してきた降谷の右手にあるブーケを見て風見は固まる。
かろうじて声には出さなかったが”おはようございます”と紡ごうと開いた口が”お”の形のままピタリと止まった。

先に声を発したのは、入り口近くに居る同僚だった。

「お、おはようございます降谷さん…」

「あぁ、おはよう。
俺が来るまで特に変わった点はなかったか？」

「は、はい…」

風見の耳に、動揺する同僚の声と平然とした様子の上司の声が聞こえ、それは徐々に風見のデスクに近づいて来る。

「風見？どうかしたか？」

「い、いえ！おはようございます。」

「おはよう。」

首を傾げるこの上司は、鋭いのか鈍いのか。
今度の酒の席での議題にしようと、風見は思った。







前日大きな案件を片付けたばかりの降谷のチームは、特に急を要する案件もなく比較的穏やかな雰囲気だ。
終業時間が近づき、今日は早く帰れそうだ、と皆意気揚々とした空気が漂う中、突然降谷は口を開いた。

「なぁ風見、聞いていいか？」

「…はい、自分で答えられる事なら。」



「フラれるってどんな感じだ？」

「……は？」

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