愛を込めて花束を2【降谷零】

12話 ページ44

「そういう事だったのか…」

「え？」

納得がいったかの様に、突如ぼそっと呟いた降谷の言葉をAは上手く聞き取る事が出来なかった。
Aが降谷を見やると、降谷は何やら真剣な顔で一輪の薔薇を見つめていた。

「本当は、12本贈りたかったんだ。」

「え…」

「けど、朝寄った花屋には11本しかなくて、Aさんの花屋では”大丈夫だから”って言って、売って貰えなかったんだ。
こういう事か…、あの人も粋な事をしてくれる。」

花屋に勤め、知識豊富なAが知らない訳がなかった。
降谷の言葉の意味を理解したAが、信じられないとでも言いたげに、片手で口元を覆う。

降谷は、Aの腕から先程自身が渡した11本の薔薇の花束をそっと抜き取ると、自身が持つ1本の薔薇と合わせて両手に抱えた。

それぞれラッピングされている為に歪ではあるが、2つの花束は12本の1つの花束へと変わる。

「12本揃わなかったから、まだ早いって事なのかと思って諦めようとしたんだ。
これ聞くと、もう後には引けないし、例え嫌いって言われても、正直もう離せる自信は無いけど、どうする？聞く？」

数秒の沈黙の後、Aはコクンと頷いた。







12本で1つとなった薔薇の花束には、その一本一本に意味が宿る。

「誠実、栄光、情熱、信頼…
愛情、努力…
あー…ちょっと待って、飛んだ…えっと…」

「感謝、尊敬、希望、真実、幸福、そして」

焦る降谷をサポートする様に、Aも一つ一つの意味を噛みしめながらも、優しく言った。

まるで世界には二人しか居ない様だ。




そして、最後の１つ。

「永遠」
「永遠」





再び差し出された花束を、Aはまるで壊れ物を扱うかの様に両手で優しく抱き締めた。



「いつかまた、失くしてしまうかもしれない幸せに、手を伸ばす事が怖くないと言えば嘘になる。
それでも…俺はこれから先の未来を、貴方と一緒に生きていきたい。
…どんな時でも、生きる事を諦めたりしない。
何があっても、帰ると誓う。
だから、貴方が、俺の帰る場所であって欲しい。」

「……っ」

「俺の、生きる理由になって欲しい。」

しっかりとした手付きで、降谷はポケットに隠していた小さな箱を取り出した。


「結婚して下さい。」






【薔薇×12本(ダーズンローズ):私の妻になってください】

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