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12話 ページ42

あろうことかAは、降谷の方ではなく全く逆方向、後方のカウンター内へと足を運んだ。
予想外のAの行動に、降谷は花束を手に立ち尽くす他なかった。

(まさか、駄目…なのか?)

すぐにカウンターから出てきたAは今度こそ降谷の方へ、一歩、また一歩、ゆっくりと歩み寄る。








固唾を呑む降谷の目の前でAは止まった。
手を伸ばせば、すぐそこには降谷の持つ花束がある。

Aは、何も言わずに左手でそっと、その花束を受け取った。
そして

「……?」

「これ…零さんに。」

「え、」

Aが後手にしていた右手を降谷へ差し出した時、そこに握られていた物に、今度は降谷が息を飲む。
そこには、ラッピングされた一輪の真っ赤な薔薇。

「はい、どうぞ。」

「え、」

「わぁ…流石、似合いますねー…。」

有無を言わさない様子のAの握るそれを、恐る恐る手に取った降谷を見てAはのんびりと言った。
思考の停止した降谷は気付かない。
実はAも、平然を装おうと必死な事を。

「これは…その…、そう受け取って、良いのか」

「1本の赤い薔薇の花言葉は…”あなただけ”
私にとって貴方は…ただ一人の、大切な人です。」

「……」

スゥ、とAが深く息を吸う。




「私も、貴方が好きです。」




世界の時間が止まった様に感じた。

「……っ」

組織の諜報員バーボンとして、平然とした顔でハニートラップ紛いの事までしていたあの頃の自分が懐かしい。
降谷は、真っ直ぐに想いをぶつけて返してくれたAの瞳を、逸らさずに堪えた自分を褒めたかった。

しかし

鏡を見なくても分かる。
今の自分の顔は、分かりやすいほどに赤く染まっているだろう。

「零さん?」

口元を右手で覆い、黙り込んだ降谷に、Aは首を傾げる。

「いや…、
好きな人に好きと言って貰える事は、こんなに幸せな事だったんだなって。」

その言葉を聞いて、Aは花が咲いた様に笑った。
降谷とAが出会った、あの日と変わらない笑顔で。



嬉しさに歓喜する一方で、降谷は思った。

(ああ、そういう事だったのか…)

そして

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虎鉄(DC一時お休み中)(プロフ) - 休校さん» 休校様、返信遅れて申し訳ありません!コメント有り難う御座います(^^)上から目線だなんてとんでもない!感想だけでも嬉しいのに、面白いと言って頂けて本当に感激です。この作品は特に、言葉を大事にしたのでより嬉しいです!また読んで貰えると跳んで喜びます笑。 (2020年6月20日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
休校 - とても素敵でした!今まで降谷さんのお話をはしごしてきたのですが、一番面白かったです。(上から目線不快に思われたら申し訳ない! 本当に、本当に、言葉といい、センスといい、ストーリーといい、弟子にしてください笑また、見にきさせていただきます。お疲れ様です (2020年6月15日 21時) (レス) id: e4ab2b5df5 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - 藍さん» 夜分遅く&返信遅くなり申し訳ありません。テーマは幸せ、だったのでそう感じて頂けて何よりです!文字数多くて読むの大変だったかと思いますが、それにも関わらず感想を下さり、本当にありがとうございます!これからも頑張れる様に頑張ります!笑。 (2019年5月13日 1時) (レス) id: f628ddcf07 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 読ませて頂きました!とっても綺麗なお話で、最後の幸せすぎる展開にお恥ずかしながら涙しちゃいました…笑これから続編も読ませていただくのですが、どうしても感想を伝えたくて仕方がありませんでした!これからも頑張って下さい!応援してます(*´ω`*) (2019年5月6日 23時) (レス) id: 8bfd8d1747 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ノンノンさん» 勿論覚えております^_^コメントありがとうございます!桜木美咲…!桜の木が美しく咲く、すごく日本らしくて素敵な名前に、自分でちょっとグッジョブと思ってしまいました笑。ノンノン様のコメントで私は幸せな気持ちです^_^本当に感謝です! (2018年8月2日 2時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年7月6日 0時

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