11話 ページ26
「私に、経営理念とかそういうものは何一つ無いんです。」
降谷は、まるで狐につままれた様な気分だった。
こんな事があるんだろうか。
「ただ、兄が大切にした思い出と、兄の願いの象徴であるこの店をなかった事にするのが嫌なだけで。」
「…じゃあ、あそこにしまってある銅の卵焼き器は」
そう、降谷はいつか、Aが常連から預かった湯飲みをしまおうと開けた棚の中に、使い古された取っ手のそれを見たのだ。
「兄のです。
この店は、言ってしまえば…兄が彼等に本当のだし巻き玉子を振る舞ってあの日のお礼をやり直す、その為だけに建てられた店です。
それが果たせれば、この店は閉じてまた違う人生を歩むって言ってましたから。
でも…その兄はもう居ません。
兄のものには及ばないけど、兄直伝のだし巻きをいつか、彼等に振る舞うその時まで、誰かに振る舞う資格は無いんです。」
降谷の脳裏には、ある日の鮮明な記憶が蘇っている。
降谷は、震えそうになる声をなんとか保ち、Aにぽそりと問いかけた。
「その、警察官達の、名前は…」
「名乗りはしなかったらしいので、彼等が呼び合ってた苗字や名前だけしか。
確か…」
「まつだ、さんと…」
『おい松田!お前それ最後の1つじゃねぇか…っ‼』
「はぎわら、さんと…」
『萩原の傷心パーティーがとんでもないものに化けたな。』
「だて、さんと…」
『おい伊達、それ食わねぇなら俺にくれ』
『これは降谷の作った料理と同じか、それ以上に美味いわ。
フラれてみるもんだね。』
『ゼロ、良かったな。
現れたじゃん、だし巻き玉子が得意な人。』
『景光…お前まで俺を弄りだしたら手が付けられないから止めてくれ。』
「ふるや、って人をゼロって呼んでた人が確か…」
「景光」
「そうです、ひろみつ…さん…、え?」
Aは、降谷から告げられた名前に目を瞬かせた。
あの日の当事者しか知りえない名前。
それが意味するものが何か、Aは信じられないといった様な表情で、隣に佇む降谷に顔を向けた。
降谷は俯いている。
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虎鉄(DC一時お休み中)(プロフ) - 休校さん» 休校様、返信遅れて申し訳ありません!コメント有り難う御座います(^^)上から目線だなんてとんでもない!感想だけでも嬉しいのに、面白いと言って頂けて本当に感激です。この作品は特に、言葉を大事にしたのでより嬉しいです!また読んで貰えると跳んで喜びます笑。 (2020年6月20日 10時) (レス) id: 4e898d55ea (このIDを非表示/違反報告)
休校 - とても素敵でした!今まで降谷さんのお話をはしごしてきたのですが、一番面白かったです。(上から目線不快に思われたら申し訳ない! 本当に、本当に、言葉といい、センスといい、ストーリーといい、弟子にしてください笑また、見にきさせていただきます。お疲れ様です (2020年6月15日 21時) (レス) id: e4ab2b5df5 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - 藍さん» 夜分遅く&返信遅くなり申し訳ありません。テーマは幸せ、だったのでそう感じて頂けて何よりです!文字数多くて読むの大変だったかと思いますが、それにも関わらず感想を下さり、本当にありがとうございます!これからも頑張れる様に頑張ります!笑。 (2019年5月13日 1時) (レス) id: f628ddcf07 (このIDを非表示/違反報告)
藍(プロフ) - 読ませて頂きました!とっても綺麗なお話で、最後の幸せすぎる展開にお恥ずかしながら涙しちゃいました…笑これから続編も読ませていただくのですが、どうしても感想を伝えたくて仕方がありませんでした!これからも頑張って下さい!応援してます(*´ω`*) (2019年5月6日 23時) (レス) id: 8bfd8d1747 (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ノンノンさん» 勿論覚えております^_^コメントありがとうございます!桜木美咲…!桜の木が美しく咲く、すごく日本らしくて素敵な名前に、自分でちょっとグッジョブと思ってしまいました笑。ノンノン様のコメントで私は幸せな気持ちです^_^本当に感謝です! (2018年8月2日 2時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年7月6日 0時