01話 ページ4
降谷の小さな囁きを拾ったのか、彼女は小さく、だが目に見えて嬉しそうに笑みを零した。
しかし、彼女が話しかけてくる事はなかった。
店内にBGMはない。
聞こえてくるのは、彼女が作業する音だけ。
けれど、不思議と居心地の悪さは感じなかった。
無言でひたすら食べ進めた降谷に、女性はそっと湯飲みをカウンターに置いた。
匂いからわかる、それは緑茶だった。
「ありがとうございます。
ゆっくりお茶を飲むのも久しぶりな気がします。」
「多分普段コーヒーや紅茶を嗜まれてるかなとは思うんですけど…もう夜も遅いので。」
確かに、スーツ姿の男が湯飲みを傾け緑茶を啜る、というのはあまり見慣れた光景とはいえない。
それに、降谷は髪色も含め自身の姿そのものがミスマッチだという自覚もあった。
棚に並んだ色々な種類の茶葉を見て、降谷は彼女に問いかけた。
「確かに夜にコーヒーはあまり飲まないですね。
緑茶は夜にオススメなんですか?」
「緑茶に含まれる成分はリラックス作用もあって、ストレス緩和や睡眠の質をあげてくれる効果もあります。」
降谷も、日本茶に関しては浅い知識であるがなんとなく知っていた。
けれども敢えてなぜそれを尋ねたのか、降谷はその答えに気付かない。
「40分後くらいに寝るのがオススメです。」
「…どうして、この辺に僕の自宅があると?」
「この辺はどちらかと言えば住宅地とは言えません。
最寄りの駅もあるにはありますが、この店からは結構離れてるのでここを通るのはお仕事帰りに駅に向かう途中の方か、この辺にお家がある方かなって。」
「駅に向かう途中とは思わなかったんですか?」
「ここから駅へは歩けば結構かかります。
なのに終電を気にされてる様子も誰かに連絡する様子も無いですし…靴が、全然磨り減っていないので職場が近くて、この辺にお住まいなのかな?って。
…って、ごめんなさい‼」
先ほどまでの落ち着きが嘘の様に、彼女は口元に手を当て狼狽えた。
「…ははっ…、いや全く気にしてないので謝らないで。
凄いな、当たってる。」
「本当にごめんなさい…っ‼
接客業をしているとついどんな方なのかな、って推測してしまうクセがあって…」
「他は?」
「え?」
「他に何か読み取れました?」
参った。
花が咲いたような笑顔、落ち着きを見せる笑顔、慌てふためく姿、キョトンとする姿。
もっと、色んな表情を見てみたいと思ってしまう自分が居た。
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虎鉄(プロフ) - 朔夜さん» この話において優しいは最高の褒め言葉です、ありがとうございます涙。まさにその通り、ちょろっとしか知りませんがその方をイメージしております!ほっこりをお届け出来ているなら心底ホッとしました。 (2018年6月30日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜 - あー、なんて優しい話だー。うっかり某特命係の行きつけを思い出し、かってにリンクさせてホッコリ.....。幸せという花束、ありがとう(^-^) (2018年6月30日 19時) (レス) id: 52c615fe9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 即減速したので大丈夫でした笑。この道路でこの制限速度はちょっと…と思いながらも、車社会なので一発免停に怯える毎日です。ご心配お掛けしてすみません!本当にいつもありがとうございます涙。 (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 頑張ってきた発言にホロリときそうでした…数字に囚われて精神的に更新に追われてた部分があったので、2日休むだけで大分プレッシャーから解き放たれました笑。未だスランプ中ですが汗。警察学校組を下手に書きたくないってのもあるかもしれません… (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
ぴよこ(プロフ) - そして覆面Σ( ゚Д゚)!!免停は免れたのでしょうか((( ;゚Д゚)))?気を付けてください(>_<) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3760492a40 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月15日 0時