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05話 ページ28

降谷と風見が見守る中、Aは握ったままの包丁をそっとまな板の上に置くと、体ごとその男性客と向き合った。


「その言葉は、貴方の一番大切な方…菊池さんにとっては奥様に言ってもらってこそ意味があるんですよ?」

「いやー、でもうちはもう結婚して何十年も経つからさ」

「いつでも言える、いつでも聞ける。
…そう思っていては、手の内にある筈の幸せに気づく事は出来ませんよ。
当たり前の幸せが、形として目に見えたら誰も苦労はしません。
どんなに充実した毎日を送っていても、いつか必ず思います。
あの時、伝えれば良かったと。」

「Aちゃん…」


店内は、小さく点けられたままの火の音しか聞こえない。
それは降谷がここに通い始めてから、初めての空気だった。
背筋がシャンと伸びそうになる感覚を壊したのもまた、Aだった。
Aはパン、と一つ手を打ってから口を開いた。


「なんて…この前テレビでやってましたよ。
菊池さん飲み過ぎです。
もう今日はお酒出しませんからね?」

「え、Aちゃんそれはないよー‼」

「菊池さん、仕方ないって‼諦めな、ドンマイ‼」

「他人事みたいに言ってますけど、連帯責任で杉田さんもですからね?」

「え⁉」


静まり返った空気が一掃され、降谷の知る和やかな雰囲気に戻る。
思えば、今まで遅い時間にしか来る事が出来なかった為、いつも店内は降谷とAだけだった。
今日は違う。
こうして自分ではない誰かと店内で会話をするAを見るのは初めてな気がする。
そんな彼女の姿もまた新鮮に感じて嬉しく感じる自分が居るから降谷は怖くなる。

やがて、パチパチと油の爆ぜる音が聞こえてくる。


「お待たせしました。
前失礼しますね。」

先に風見の前が、ご飯や汁物、香の物、副菜で彩られていく。
そして、最後に置かれたのはキャベツの千切りと野菜と共に盛られた唐揚げだった。

心の中で”あの降谷さん行きつけの店”というだけで、自然とハードルをあげていたらしい。
彩どりこそあるが、そこら辺の定食屋と何ら変わりのない家庭的なメニューに風見は少し面食らった。

そして、遅れて降谷の前に置かれた料理に2人同時に思わず声が出た。

「え?」
「え?」

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虎鉄(プロフ) - 朔夜さん» この話において優しいは最高の褒め言葉です、ありがとうございます涙。まさにその通り、ちょろっとしか知りませんがその方をイメージしております!ほっこりをお届け出来ているなら心底ホッとしました。 (2018年6月30日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜 - あー、なんて優しい話だー。うっかり某特命係の行きつけを思い出し、かってにリンクさせてホッコリ.....。幸せという花束、ありがとう(^-^) (2018年6月30日 19時) (レス) id: 52c615fe9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 即減速したので大丈夫でした笑。この道路でこの制限速度はちょっと…と思いながらも、車社会なので一発免停に怯える毎日です。ご心配お掛けしてすみません!本当にいつもありがとうございます涙。 (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 頑張ってきた発言にホロリときそうでした…数字に囚われて精神的に更新に追われてた部分があったので、2日休むだけで大分プレッシャーから解き放たれました笑。未だスランプ中ですが汗。警察学校組を下手に書きたくないってのもあるかもしれません… (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
ぴよこ(プロフ) - そして覆面Σ( ゚Д゚)!!免停は免れたのでしょうか((( ;゚Д゚)))?気を付けてください(>_<) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3760492a40 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月15日 0時

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