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01話 ページ3

帰宅して眠るだけだった筈の降谷の姿は、偶然見つけた店の中にあった。
扉を抜けた先は、木の温もりが漂う、まさに”小料理屋”と呼ぶに相応しい佇まいだった。
テーブル席はなく、綺麗に片付けられているキッチンをL字で囲む様にカウンター席が10程あるだけ。
外見から見た第一印象とそこまで違わないこじんまりとした店だった。


「ちょっと待ってて下さいね。」


そう言うと、女将は降谷の前に箸と箸置き、そして温かいおしぼりを置いた。
降谷は改めて、今は自身に背を向けている女性をこっそりと見やる。
和服を纏う彼女は女将、と呼べる立場なんだろう。
しかし、女将と呼ぶには彼女はあまりに若く見えた。


「すみません…多分さっきの男性で店仕舞いでしたよね?」


自分しか居ない店の中を見て、降谷は申し訳なさそうに言った。


「ここは閉店時間なんてあってない様なものですから気になさらないで下さい。
食べられない物、ありますか?」

「いえ…。」


数分後、降谷の目の前は彩られた。


「お代わりは遠慮なく仰って下さいね。」


そう告げると、彼女は先ほどの男性の席に残された器を片付け始めた。

器さえも料理の一部と言うのも頷ける程、センスの良さを伺わせたそれら。
降谷の目の前に並べられた皿の数々には一際輝くごはんと漬物の他に、味噌汁、ほうれん草のおひたし、そして


「じゃがいもを沢山頂いたので、今日のメインは肉じゃがなんです。
すみません…初めてのお客様に対してこんなので…。」


定食といっても寸分違わないその料理達は、どこをとっても色や栄養バランスが完璧だと心の中で安室透が告げる。


「頂きます。」


何となく、彼女には知られたくなくてバツが悪いが、降谷は久々に箸を両手で持ってきちんと言った気がした。
ちゃんとした食事すら、最後に取ったのはいつかも覚えてない程だ。

口に運んだのは、メインの肉じゃが。
固すぎず柔らかすぎない程に煮込まれたじゃがいもは、降谷の口の中でほろりと崩れた。


「美味しい……っ」


それは、幸せの味がした。

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虎鉄(プロフ) - 朔夜さん» この話において優しいは最高の褒め言葉です、ありがとうございます涙。まさにその通り、ちょろっとしか知りませんがその方をイメージしております!ほっこりをお届け出来ているなら心底ホッとしました。 (2018年6月30日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜 - あー、なんて優しい話だー。うっかり某特命係の行きつけを思い出し、かってにリンクさせてホッコリ.....。幸せという花束、ありがとう(^-^) (2018年6月30日 19時) (レス) id: 52c615fe9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 即減速したので大丈夫でした笑。この道路でこの制限速度はちょっと…と思いながらも、車社会なので一発免停に怯える毎日です。ご心配お掛けしてすみません!本当にいつもありがとうございます涙。 (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 頑張ってきた発言にホロリときそうでした…数字に囚われて精神的に更新に追われてた部分があったので、2日休むだけで大分プレッシャーから解き放たれました笑。未だスランプ中ですが汗。警察学校組を下手に書きたくないってのもあるかもしれません… (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
ぴよこ(プロフ) - そして覆面Σ( ゚Д゚)!!免停は免れたのでしょうか((( ;゚Д゚)))?気を付けてください(>_<) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3760492a40 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月15日 0時

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