検索窓
今日:32 hit、昨日:108 hit、合計:603,810 hit

03話 ページ15

「デザートは食後にお出ししますね。」

そう言うとAは、降谷に”どうぞ”という風に笑いかけた。
箸を手に取った降谷だったが、動きを止めて少し考える。


「どうせだったら、桜木さんも一緒に食べませんか?
ここで食べて帰るつもりだった、ってさっき言ってましたよね?」

「確かに言いましたけど、でも…」

「他にお客さんは居ないし、俺1人で食べるより2人で食べた方がもっと美味しいと思う。」


一人称が俺に変わった降谷の半ば強引にも思える誘いにAは戸惑ったが、降谷の言い分は一理ある。
降谷の好意に甘んじようとAはすぐに準備を始めた。
その姿を眺め降谷は小さく笑みを零した後、少し慌ててブーケを奥に押しやった。

変に距離を置かれたらどうしようかとも思ったがその心配はいらなかった様だ。
降谷の目の前にある物と同じ物が、横に並ぶ。

「すみません、お待たせしました。」

少しして、Aはカウンターキッチンの垣根を越え降谷の横の椅子に腰を下ろした。
その際、後に盛られたAの味噌汁とご飯が、ほんの少しだけ温かさの減った降谷の物と差し替えられる。
さりげないその気遣いに、降谷は心打たれた。

そしてどちらともなく箸を手に取る。
思わず横に居るAの顔を見た降谷につられたのか、Aも横の降谷の顔を見上げた。
気恥ずかしさはもちろんあった。
2人とも少しだけ口元を緩ませると、しっかりと箸を両手で持ち、同時に言った。


「頂きます。」

「いただきます。」







「あー…美味い。」

横から聞こえてきた、ため息の様に漏れて出た降谷の言葉に、Aは笑みを零した。
それは、褒められたからだけではない。
Aの記憶が正しければ、前回降谷は「美味しい」と表現していた。
敬語は外れないものの、砕け始めたその物言いにもまたAは笑みを零したのだ。

(こっちの方が本性なのかな?)

本性といえば聞こえが悪いが、少しでもリラックスしてくれてるのだろうかとAは心の中で嬉しさが込み上げる。


「お口にあったなら良かった。」

「まだ2回目だけど…ここに来るたび心底思う。
日本人で良かった。」

03話→←03話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (391 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1217人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

虎鉄(プロフ) - 朔夜さん» この話において優しいは最高の褒め言葉です、ありがとうございます涙。まさにその通り、ちょろっとしか知りませんがその方をイメージしております!ほっこりをお届け出来ているなら心底ホッとしました。 (2018年6月30日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
朔夜 - あー、なんて優しい話だー。うっかり某特命係の行きつけを思い出し、かってにリンクさせてホッコリ.....。幸せという花束、ありがとう(^-^) (2018年6月30日 19時) (レス) id: 52c615fe9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 即減速したので大丈夫でした笑。この道路でこの制限速度はちょっと…と思いながらも、車社会なので一発免停に怯える毎日です。ご心配お掛けしてすみません!本当にいつもありがとうございます涙。 (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
虎鉄(プロフ) - ぴよこさん» 頑張ってきた発言にホロリときそうでした…数字に囚われて精神的に更新に追われてた部分があったので、2日休むだけで大分プレッシャーから解き放たれました笑。未だスランプ中ですが汗。警察学校組を下手に書きたくないってのもあるかもしれません… (2018年6月27日 20時) (レス) id: e9fa573a9b (このIDを非表示/違反報告)
ぴよこ(プロフ) - そして覆面Σ( ゚Д゚)!!免停は免れたのでしょうか((( ;゚Д゚)))?気を付けてください(>_<) (2018年6月25日 21時) (レス) id: 3760492a40 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:虎鉄 | 作成日時:2018年6月15日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。