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中島
その名前をだした瞬間、前を歩いていた足が突然止まってしまうから危うく背中にぶつかりそうになる。
そっか、と呟いた彼はちょっと戯けた様に笑ってこちらに目を向けた。
聡「でも、別れたふりしてバレないように付き合うってのもありじゃん？」
「そこまでして聡と付き合いたいとは思えない」
聡「え？」
「ここんとこ、ずっと考えてたんだけど。
彼女だっていう想像が出来なくて。
もし仮に付き合ったとしても、変わらず幼馴染のままっていう感じでいくような気がして…
それに、聡にはずっと大切な人でいてほしいから」
逃げてる、なんて思われて当然だ。
彼女かどうかなんて、そんなの努力次第で何とでもなるだろ、って。
こうしている今でさえ、卑怯な言葉で目の前の彼を傷つけているんだから。
こんな墓場がたくさんある所で会話する内容ではないのに、私は彼に遠回しな答えを伝えてしまう。
白のストライプが入っている水色のシャツの裾をぎゅっと握りながら話す私を見て、ふふっといつもの笑顔を見せる聡
聡「ずるいなぁ」
「…ごめん」
聡「謝んないでよ。俺はただ、幼馴染っていう言葉にずるいって思っただけだし。
でも、振られてもずっと幼馴染なんだからこれからも会えるんだし、良いこととして受け止めるわ！うん！
仮でも俺と付き合ってくれてありがとう」
「そ、う…」
聡「ほら叔母さんとこに土産買うんでしょ？
こったら近いケーキ屋とかいいんじゃない？」
名前を呼んだとき、こちらに背を向けながら話す彼の背中がいつもより寂しく見えた。
中学の私だったら、どうしてたんだろう。
あの時封じ込めてしまったが故に戻って来なくなった気持ちは彼に伝えじまいになってしまった。
私があの時ちゃんと一歩踏み出していたら、また違う景色が広がっていたのかもしれない。
でも今の私にはそんな勇気も、何も、ない。
ただ、今の関係でいられるだけで十分だと思っているのだから。
これが恋人になるってことで、
これが幼馴染なんだってことか…。
幼馴染なんて、感じなくなっちゃえばいいのに。
なんで、こんな言葉作っちゃったのよ。
私は先を歩いていく聡の後にただ付いて行くしかなかった。
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・
前で歩く彼が静かに頬を濡らしていることにも気付かずに________
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作者名：ぶぶ | 作成日時：2020年11月14日 5時
