執着の氷華２【ブルーロック】

５３.知らない ページ7

-Isagi side-










知らなかった、御影さんに兄が居たなんて。
一体、どんな人なのだろうか。
今更だが、俺も重症だな。
御影さんの事なら、どんな事でも知りたいと考えてしまう。


「その兄は、何歳上なんだ？」

『兄さんと私は双子だよ。生まれた時から、ずっと一緒に過ごして来た』


まじか、双子って事は俺と同い年なのか。
同い年を『お義兄さん』って呼ぶのは、正直少し躊躇われる。
って、何を考えているんだ俺は。












『兄さんは、私にとって誰よりも特別な人で……どんな事があっても、失いたくない人なの。兄さんが言う事は全て正しいし、私はずっとそれに従って生きて来た。兄さんは凄い人なんだ。勉強も出来るし、運動だって何でも出来る。色んな人にも好かれて、私とは違う日の当たりを歩んで来た人なんだよ。それに、こんな私に沢山の優しさをくれた。

兄さんの為なら、どんな願いだって叶えてあげたいし、望むものだって差し出したい。それが、私の生き甲斐なんだ』


こんなに嬉しそうに笑っている御影さんも、ここまで長く話している御影さんも初めて見た。
その音を奏でる様に告げられる声は、どれも心地良い程心に浸透するのに、何故か変な胸騒ぎが起き始めてしまう。
『兄さん』、御影さんは何度もその言葉を口にしていた。
その人の話をしている時、御影さんの目は恍惚と潤んでいた。
それ程、兄の事が大事なのだろうと分かったが、突然嫌な予感がして、これ以上御影さんの今の姿を見ていたくなかった。


「へ、へぇ、御影さんはお兄さんが凄く大切なんだね」


下手な作り笑いになってしまった様な気がする。
でもそんな事気付きもしないのか、御影さんは心酔した様に言った。












『大切なんて言葉じゃ収まらない。兄さんは、そんな言葉で片付けられる様な存在じゃないから』


その言葉に、今度こそ言葉を無くしてしまった。
思わず、國神と目を合わせてしまう。
國神も御影さんの異変に気付いている様で、少し戸惑い気味に眉を寄せていた。


「……御影にとって、その兄は何なんだ？」


何を思ってか、國神がそんな事を口にした。
しかも、どこか怒りが混ざっている様に見えるのは気の所為だろうか。
そんな國神の言葉に御影さんは、パチリと瞬きをしたが、すぐに当たり前の様に言った。












『兄さんは私にとって、世界の全てで、“生きる意味”だよ』


何の疑いも無い、純粋な瞳。
こんな御影さん、俺は知らない。

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