執着の氷華２【ブルーロック】

８４.会いたい人 ページ38

試合を終えた私達は、ロッカールームに戻り、シャワーを浴びた。


今日は、本当に色々な事が起こった。
シャワーを浴びても、拭い切れない後味の悪さがある。
これから、どうやって久遠さんと関われば良いのだろうか。











「飯、行くよAちゃん」


五十嵐君の声に顔を上げる。
他の皆も、扉の前で私を待ってくれているみたいだ。


『私は髪を乾かして行くから、先に行って大丈夫だよ』


タオルで頭を拭きながら言う。
『俺も残ろうか？』と千切君が言ってくれたけど、待たせるのも悪いから首を振った。


「分かった。先に待ってるね」


潔君がそう言うと、他の皆も食堂へと向かう。
私も早く乾かして食堂へ向かおうと思い、ドライヤーを取って電源を入れた。











『これで良いかな』


数分を掛けてドライヤーを終えた私は、櫛で髪をとかした。
一段落ついた所で、ロッカールームを出て食堂へと向かい始める。


ドライヤーをしている時も、櫛で髪をとかしている時も、いつも兄さんの事を思い出してしまう。
幼い頃から、兄さんはよく髪を乾かしてくれた。
私の髪は綺麗だと言って、優しく頭を撫でてくれた。
どの思い出も、全て私の宝物だ。


だけど、今はこの時間が嫌いだった。
どうしようも無く、兄さんに会いたくなってしまうから。


『兄さん、勝手に出て行って怒ってるかな……』


やっぱり、会いたいな。











『ん……？何か聞こえる？』


食堂に着くと、誰かの話し声が聞こえた。


「サッカー、なめんな！」


どうやら、潔君達と誰かが言い争っているみたいだ。
潔君の声を聞くに、かなり怒っているのが分かる。


誰と口論しているのだろうかと、食堂へと顔を出した。


「だから誰だよ、テメェ。いきなり突っかかって来て、何様だよ」











『え……』











恐らく、潔君と敵対している相手側の声。
その声は苛立ちが隠しきれず、冷たく響いている。


嘘、どうして……。
この声を私が聞き間違える筈無い。
何で、何で、何で、と疑問ばかりが湧いて、心臓が激しく波打つ。











『兄、さん……？』











今度こそ、見えた相手の顔。
やっぱり間違いじゃなかった。
其処に居たのは、私が会いたくて堪らなくて、それと同時に１番会いたくなかった人―――玲王兄さんが居た。


私の掠れた声に気付いたのか、ゆっくりと兄さんの視線がこちらを向く。











「……A？」


兄さんの虚ろな目が、大きく見開かれた。

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