執着の氷華２【ブルーロック】

７７.ごめん ページ31

今のゴールで思い知らされた。
やっぱり鰐間兄弟を自由にさせていると、危険分子になる事は間違いない。











「無理して攻めなくて良いから、確実にパスしてこー！」


パンパンと手を叩きながら、久遠さんが言う。
久遠さんはそのまま『Aちゃん！』と、後方に居た私にバックパスした。


『え……！』


この状況で、私にパス……？
しかもボールはコロコロと転がるだけで、明らかに勢いが足りない。
急いでボールを取りに行こうと走ったが、その前にお兄さんに横取りされてしまう。


「あ、ゴメン！」


久遠さんは、悲痛な声で謝罪した。
その間にも鰐間兄弟は互いにパスを出して、圧倒的な速さでゴールを決めた。


これは、マズい……。
さっきのミスは、明らかに致命傷だ。











「何やってんだ！？久遠オラぁ！？」


直ぐ様掴み掛かろうとする雷市君だったが、『落ち着け！』と國神君に制される。
久遠さんは虚ろな様子で、『ゴメン、何やってんだ……』と自傷気味に呟き、ガバッと地面に頭を付けた。


「こんな大事な試合で、ごめん……！！」


いきなりの土下座に、全員が息を呑んだ。
こんな人が大勢居る場所で何の躊躇も無く膝を突いた久遠さんに、思わず目を見張ってしまう。
何度も『ごめん』と繰り返す久遠さんを見兼ねた皆は、次第に慰めの言葉を掛けて行った。


『次の１点は、何とか阻止しないと』

「うん、このままひっくり返せる事も有り得るからね」


私の言葉に、硬い表情をした潔君が頷く。
そのまま何気なしに、國神君に手を差し伸べられている久遠さんに目を向けた。











『……え？』


今、私が目にしたのは、薄く笑っている久遠さんだった。
その笑みは、先程まで私達に謝罪を述べていた人が見せる表情とは思えない。
直ぐに久遠さんの顔は変わっていたから気の所為かもしれないけど、あんな強烈な笑みを見間違える訳無かった。


無性に嫌な予感が、私の背中に這いずり回る。











後半１５分、もう１度私達は攻めに投じた。
でも皆の武器が全て読まれているどころか、分かり切った様に弄ばれていたのだ。
研究されただけで、ここまで武器が通用しないなんて可笑しい。
それこそ、誰かが意図的に情報を流しているとしか考えられなかった。


その時に思い浮かんだのは、先程の久遠さんだった。
よく考えたら、この試合の得点は全て久遠さんが絡んでいるのだ。


『まさか……』


私の中で、１番考えたくない可能性が芽を出した。

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