余談（新しい方） (ページ26)

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「高校生活はそれなりに楽しくやってたで。勉強にもついてけれたし、仲良い友達もおったし。なんら問題なく卒業して、現役で大学も受かって東京出てきてん」

別にこれといって引くようなところはない。

「まぁ、運命の分岐点はそこやってんけど。旦那とは大学で出会ったって言うたよな？」

「何回も告白されたけど忘れられない人がいるって断った…」

「うん。そうそう。もう気づいてるとは思うけど、その忘れられない人、正真正銘濱家くんやで」

…え？
告白断るための、ただの作り話やと思ってた。

「私、大好きやったんよ。馬鹿でな。どうしても忘れられへんかってん」

…本気やん。
それがはっきりと分かった上で言われた言葉を反芻すると、すぐさま赤面。自分で見なくても分かる。

「…やめてぇや。こんな顔真っ赤にされたら私までだんだん恥ずかしなるやん」

そう言いながら、夏木もほんとにだんだんと赤くなってきている。

「いや、だって…」

にしてもストレート過ぎるやろ。
それとなんやろ。らしくない気がする。

「…話戻すけど、あの人、毎回私が断っても何度でもまた告白してきてん。オーケー出すまでずっとするつもりやったんちゃうかな。だから、だんだん可哀想になってきて。断る度に心痛なるし」

「血も涙もない夏木が？」

「…それで色々思考するうちに、ある考えに辿りついた」

あっ、しばらくの沈黙の後に無視された。

「濱家くんはもういない」

たった一言。だけど、その言葉はずっしりと重くのしかかってきた。

「いないとしたら、この人と一緒にこの先の人生歩んでいくのが妥当なんやろうなって。プロポーズされた時もそう。その考えでなんとか押し通した。それでもこれが濱家くんやったらって思ってる自分はどこかにいて。その度に、旦那に対する罪悪感に苛まれた」

夏木はそこで一息ついて、声のトーンを上げた。

「でも時間の流れってすごいねんな。いつしか濱家くんのこともすっかり忘れてた。でもな、キングオブコント見てん。画面越しにだけど久しぶりに姿見たら、濱家くんとの記憶が溢れ出して」

「…」

「正直、ネタどころやなかった。泣きそうやった」

…俺、こんなにも夏木を苦しめてたんや。
俺の存在自体を記憶から消すくらいだ。相当きつかったんだろう。
でも、同時に分かったこともある。
…こんなにも愛されてたんや…と。