余談（新しい方） (ページ23)

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そうは言いながらも怠そうに水を取りに行こうとする夏木の手から、コップを取り上げた。

「座っとって。俺が取ってくるから」

大人しくダイニングテーブルにつくのを見てから、コップに水を注いで渡した。

すぐさま唇にあたり、傾くコップ。
水を飲むことによってコクコクと動く喉元の、華奢な感じに目が離せなくなる。

「…ちょっと落ち着いた。ありがとう」

「濱家くんはお水大丈夫なん？」

ほとんど酒も飲んでいなかった体が乾きに気付き、急激に水分を欲した。

「貰う。夏木も二杯目いる？」

「うん。お願いするわ」

受けとったコップを脇に置き、自分の分をいれるコップを食器棚から出そうとして、あるものを見つけた。

かなり年季の入ったペアのマグカップ。
気になって片方を手に取り裏返すと、Aという夏木の名前が筆記体で印字されていた。
それと本来なら捨てるくらいの微小なヒビも入っている。

「…大好きやん」

大切に使っているのが痛いほど伝わってきた。
それだけ見ると元の位置に戻し、自分用に隣にあったシンプルなデザインのものを手に取った。

「ん、おまたせ」

「どうも」

二人分の水を手に戻り、夏木が座る対角線上の椅子に腰掛け、水を飲んだ。

乾ききった体に水はおいしく、みるみるうちに全身に染み渡る。

「まだボーっとしとるけど、だいぶ酔い覚めてきた」

幾分か夏木の顔色も良くなり、ホッと一息吐いた。

「…酔おた勢いで色々やったろう思ったけど、もうやめた」

「……」

「冗談やん。笑ってえや」

…あながち冗談に聞こえなかったのは気のせいだろうか。

「話しせえへん？」

「話？」

「うん。お互いの知れへん間に起こった話とでもいうんかな」

＿＿＿＿こうしてしか、私たちは二人の隙間を埋めてゆくことがでけへんのやと思う。

そうなのかもしれない。
俺らが他の方法に気付いてないだけという可能性もあるが。

「この２０年の話をしよう。お互いの」

天使のような朗らかな笑顔で、彼女はそう言った。