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9 song. ページ10

来週の日曜日はすぐにやってきた。
 いつもの公園の中央広場。見慣れた景色が、心春の瞳には違って見えた。

 そっと、後ろを振り向く。少し離れた所には、拳を握ってエールを送ってくれる万理がいた。
 さらにその後ろには、カラフルな髪色が見えて、心春は驚いて目を見開いたけれど、途端に嬉しくなって花が咲いたように笑う。
 
 (わたしは、ひとりじゃない)

 大きく、息を吸って、歌を紡ぐ。
 アカペラから始まり、ギターを弾く。
 公園を歩く人たちの視線が、心春に集まる。足を止めて、歌に耳を傾けてくれる。
 サビに入ると観客は笑顔が浮かび、楽しそうに体を揺らしたり、手拍子があちこちで響く。そんな姿を見てたら心春も嬉しくなって、ただ夢中になって歌ってギターを鳴らした。

 最後の和音が青空に響き渡る。
 はあ、はあ、と荒い息を繰り返し、汗が彼女の頬を滑り落ちていく。
 心春が周りを見渡せば、知らないうちに何十人もの人が前に居て、ぎょっと体を縮こませた。

 しん、と静まり返る昼下がり。
 自分は、果たしてうまく歌えていたのだろうか。
 そんな不安な気持ちをかき消すくらいの喝采が、心春を包み込んだ。

「す、すごい素敵な歌声!」
「今日嫌なことあったのに、いつのまにか忘れちゃってた!」
「最高だったぞー! お嬢ちゃん!」
「なんか、すっごく元気になった!」

 周りからかけられる優しい声に、瞳が潤んで前が見えなくなってくる。
 ちゃんと歌えていた事実に安心して、さらに涙が浮かんできた。

「あ、ありがどうございまじだあ〜」

 泣きながら何度も何度も感謝を口にする心春に笑い声が上がり、さらに応援の言葉をかけてくれる人や、飴やクッキーをくれる人もいた。
 
 そんな優しい人たちに向けて、心春は歌を歌った。
 感謝の気持ちを、めいっぱいメロディーに乗せて。

「きょ、今日は本当に、本当に、ありがとうございました!」

 3曲を歌い終わると、最初よりも大勢の方が周りにいて、やっぱり緊張するけれど、それよりも楽しい感情が上回っていた。
 周りから人がはけていくのを見届けた後、緊張が一気に緩んで、心春はその場にぺたりと座り込む。

(わたし、あんなにも大勢のまえで、歌えたんだ)

「ごはるぢゃん……っ」
「お、大神さん!?」
「よかった……っ凄く良かったよっ」

 へたりこむ心春に覆いかぶさるように万理が泣きながら抱き着いてきて、彼女は戸惑ってわたわたと忙しなく手を動かした。

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作者名:冬眞 | 作成日時:2021年7月3日 13時

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