４８ song. ページ49
「一体何の用だ」
どしんと社長椅子に構える宗助に、心春は内心「ひっ！」と悲鳴を上げた。怯える心春を万理と、そして社長の後ろに控える姉鷺が心配そうな視線を送っていた。
覚悟を決めてきたはずだが、本人を目の前にするとその圧に押しつぶされてしまいそうになる。しかし心春は固めてきた決意を思い出し、ぐっと拳を握った。
「……八乙女社長さんの、おっしゃる通りです」
「何がだ」
「母が夢を諦めたのは、私を授かったからです」
そう言う心春に、宗助は眉間の皺をより深くさせた。
万理は、あの日社長室で同じような台詞を言った心春を思い出す。だけど、あの時とは違う。ただひたすらに、力強く前を向いた彼女の瞳に、ようやく万理は安心できた気がした。
「ですが、母は私を精一杯、心から愛してくれていました！ その愛情を否定することは、八乙女社長さんでも、ゆ、許しません！」
精一杯声を張り上げて、心春は宗助に言葉をぶつけた。
心春に対しか弱い印象を受けていた宗助は、吊り上がった目を大きく見開いた。
『もう、宗助さん、そんな冷たい態度を取ってはいけませんよ』
そう、子供を叱るように注意をする佳乃が、彼の脳裏をかすめた。
その姿が目の前にいる心春と瓜二つで、宗助は思わず顔を背けた。
「……それを言いに、わざわざここまできたのか？」
「いえ、それだけではなくて……」
心春は一歩、宗助へと歩みを進める。彼がちらりと心春の顔を見れば、そこには柔く微笑む少女がいた。
「母の歌を、愛してくださりありがとうございます。私も、母のように素敵な歌を多くの人へ届けるために頑張ります。そして、いつか、八乙女社長さんにも私の歌を好きなっていただけたら嬉しいです」
ふわりと、彼女が浮かべた微笑みに、宗助は視線を逸らすことが出来なかった。
声にならずとも、彼の口が「佳乃」と呼んだことに、心春は気づいていた。
「……ふん、勝手にしろ。用事がそれだけなら出ていけ」
「はい、ありがとうございました」
心春と万理は丁寧に頭を下げる。そんな二人を、姉鷺は社長室の外へと誘導した。
「貴女、なかなか芯のある女ね」
静かに扉を閉めた姉鷺は、感心したように心春を見つめた。そんな言葉に「へへへ」と照れ笑いを零す心春の頭を万理が撫で「よく頑張ったね」と称賛を送った。
「グスッ、ごばるぢゃん……」
突然傍から聞こえてきた声に、その場にいた三人はぎょっとして振り返る。
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作者名：冬眞 | 作成日時：2021年7月3日 13時
